イオンが首都圏スーパーを次々に「呑み込む」事情 いなげやを連結子会社にするに至った背景

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この表が示すことをまとめれば、首都圏では、この20年ほどで、郊外ロードサイド型のスーパー、ディスカウント型スーパー、まいばすけっと、が大きく成長し、それまで上位を占めていた都心から郊外へ展開していた老舗スーパーのシェアを奪った、という構図になる。

2003年の主要企業の中には当時イオン系だった企業はおらず、いまのUSMHメンバーが、その期間に伸び悩んでいたこともみてとれる。イオンは近年の成長企業に競り負けつつあったスーパーを統合してUSMHを作り、首都圏に基盤を築いたのだ。

伸び悩むいなやげの背中を押した要素

ここで今回イオン合流となった、いなげやの近況について少しみておこう。いなげやは1900年に鮮魚商としてスタートし、1956年都下(立川市)で最初のスーパーを始めた老舗の1社で、その後の都下の人口増加などを背景に首都圏に広域展開して大手食品スーパーの一角を占めるようになった。

しかし、前述のとおり今世紀に入ると、外縁部からの埼玉勢、内側からディスカウントスーパーの攻勢を受けて伸び悩むようになった。近年の業績をみても、売り上げは、巣ごもり需要期以外は横ばいで、併営するドラッグストアの拡大を除けば、食品スーパーとしては減収傾向にあった。

設備投資規模も、いなげやが年間28億円に対して、対峙する競合はヤオコー153億円、ベルク171億円、ライフ228億円、USMH277億円と桁違いの差がついており、単独で彼らに対抗することは難しい状況になってきていた(2021年度各社IR資料)。

こうした状況のもと、いなげやの背中を押したのは、コロナ後に食品スーパー業界が共通で抱える三重苦だろう。業界では、①物価上昇に伴う価格転嫁の過程で起こる粗利率の低下、②物価上昇、人手不足による人件費高騰、③冷凍冷蔵装置にかかる電気代の高騰、というこれらの減益要因が、巣ごもり需要剥落後の減収傾向とともに発生している。

これらの難題は当面解消するとは考えにくく、特に人件費の高騰についてはデフレからインフレへとゲームチェンジしたことから、労働集約的なスーパーとしては、オペレーションから変えていく必要に迫られている。それは他の小売業には見られない「インストアオペレーション」という日本の食品スーパーの仕組みに起因する。

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