静岡リニア、露呈した川勝知事と流域市町の軋轢 「ああ言えばこう言う」と揶揄された対応の数々

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3月27日に大井川利水関係協議会が開催された。JR東海が流域市町の首長や利水団体および県に田代ダム案を説明し、染谷市長の言を借りれば「ほぼ全員が了解した。“少し待った”と言ったのは県だけだった」。

会議の場で意見を問われた森貴志副知事は「県としてはここで了解とならない」としたうえで、「会の全員が出席していないため、全員の意思表示が示されていない。われわれ事務局が今日の意見と追加の意見をとりまとめてJR東海に文書で照会し、回答をいただき、それからまた進める」と回答すると、出席した首長の1人が「県が1回預かるということだが、ここまで非常に長い時間がかかっており、こういったやりとりを何回もやるのは時間の無駄だ」とたしなめるという局面もあった。

冒頭の染谷市長の発言の裏には上記のような経緯があった。高速長尺先進ボーリングも田代ダム取水抑制も流域市町の首長は同意の姿勢を見せているのに、流域市町の窓口であるはずの県が反対しているのはおかしい。県は利水者の生活を守るという本来の目的よりも、「大井川の水は1滴も他県に渡さない」という理念に固執しているようだ。

4月20日、染谷市長は大井川流域の市長たちと国土交通省を訪れ、上原淳鉄道局長に「議論がさらに進むよう、もっと国に関与してほしい。適切な助言をしてほしい」と求めた。そして、会議後の囲み取材で冒頭の発言が飛び出した。

島田市 染谷市長ら
国交省との意見交換の後、囲み取材に応じる島田市の染谷市長(中央)ら=2023年4月20日(記者撮影)

県は本来の目的を忘れていないか

染谷市長の発言を県はどう受け止めたか。4月27日に行われた定例会見で、川勝平太知事は「言い争いをしているわけではない。疑問点を1つひとつ解消していく作業をしている。議論の中身を丁寧に見てもらいたい」と、逆に注文を付けた。

川勝知事の言う「疑問点を1つひとつ解消する作業」は、流域市町の首長たちには「ああ言えばこう言う」行為に映る。事態を是正するために、国に関与を強めてもらうというのはある意味仕方がないかもしれない、同時に、染谷市長は「行司役としての国の調整力に期待しているのであり、国の思い通りにしていいという意味ではない」と念押しする。間違っても、今回の件が、国の権限拡大につながるようなことがあってはいけない。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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