ヤフー・LINE連合に迫る「プライム脱落」の現実味 親会社の株価下落で「上場基準未達」状態が続く
ZHDも株価下落のリスクを想定していなかったわけではない。複数の開示資料では、株価の推移次第で新株予約権の行使が進まない可能性について触れている。それでもこの方法を選んだのは、複数のメリットがあると判断したからだ。
1つは親会社が直接株式を売り出すよりも、株価に対する影響を抑えられる点だ。大量の株式を市場で一気に売却すると、短期的に需給が悪化し、株価が大きく下がることがある。公募売り出しでは、売却を見越したカラ売りなどの影響も受けやすい。
また、新規に株式を発行する方法(増資)と比べて、既存株主の損となりうる希薄化(1株あたりの価値が減ること)の懸念も小さい。
グループ全体で見た場合の現金流出を抑えられるメリットもある。ZHDは親会社に682億円を支払ったものの、新株予約権の行使が進めば、証券会社を経由して市場から資金調達ができる。調達した資金は、子会社であるZOZOの株式取得やヤフージャパンのライセンス契約買い取りに使った借入金の返済に充てる予定だった。
株価を1.8倍に引き上げられるか
もちろん株価が再び上昇すれば、新株予約権が行使され、基準をクリアすることも可能になるだろう。だが、下限行使価額を上回るには足元の株価を1.8倍以上に引き上げる必要があり、行使期限まで1年を切る中で達成するハードルは高い。新株予約権の行使が進んでいない現状について、ZHDは「引き続き業績および企業価値の向上に努める」としている。
東証からしても、いつまでも基準未達を認めるわけにはいかない。当初「当面の間」としていた経過措置について、東証は2023年に入ってその適用期限を「2025年3月末」と定めた。期限までに基準を満たせなければ、1年間の改善期間の後、監理銘柄に指定される。その後さらに半年以内に基準に達しなければ、基本的に上場廃止となる。
基準達成が見通せない企業などを対象に、2023年9月まではプライム市場からスタンダード市場へ移行することを認める時限措置も設けた。すでに複数社が、スタンダードへの移行を表明している。
なお、ZHDは東洋経済の取材に対し、スタンダード市場への上場を選択するかどうかについて「個別に答えることは差し控える」(広報担当者)とコメントした。
ZHDが基準に抵触した大本の背景にあるのは、ソフトバンクグループの複雑な資本構造だ。
ビジョン・ファンドなどを運営する同グループの傘下に、携帯電話事業者のソフトバンク、中間持ち株会社のAHD、そしてZHDなどが連なる資本関係を構築してきた。子会社の経営を支配して十分なキャッシュを吸い上げつつ、複数の子会社・孫会社の上場によって市場からの資金調達を行ういびつな構造を維持している。
日本有数の大企業が直面した、プライム脱落の危機という珍事。ZHDだけでなくソフトバンクグループ全体として、資本市場の厳しい評価に改めて向き合うべきだろう。
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