日本を「漁業大国」と思っている人が時代遅れな訳 魚の値段がどんどん高くなる2つの理由を解説

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震災後に一時的に大きく増えたマダラ資源(本州太平洋北部系群)は、漁獲枠がないため小さなマダラまで獲りすぎて、資源はもとの酷い状態に戻ってしまいました。同じようなことがたくさんの魚種で、全国で繰り広げられています。このため、魚の資源も漁獲量も減って供給減になり、価格が上昇しているのです。

魚を食べ続けるために

今後も世界的な水産物の需要増による価格上昇は避けられません。また、水産物の供給が難しくなれば、各国は自国での消費を優先させていくことでしょう。輸入水産物が安定供給のために不可欠な状況に変わりありませんが、日本のために特別な安い価格で輸出してくれる国などありません。国際相場は変動しますが、安い魚が入ってきて国内の漁業者が困るといった時代ではないのです。

国内の水産資源管理の進展状況を見ますと、国は「国際的に見て遜色のない資源管理」を進めようとしています。そして水産業が成長産業になっている、漁船や漁業者などに漁獲枠を配分するノルウェーなどの個別割当制度(IQ)の導入を進めています。

しかしながら、海外の成功例などが漁業者の皆さんに誤って伝えられていることが少なくなく、自分たちに将来にわたってプラスになる国の政策に反対してしまう、自分で自分の首を絞めてしまうケースが散見されます。

データから明らかですが、これまでの日本の水産資源管理は成功していません。結果に対してPDCAサイクルを回すことはなく、責任の大半は海水温の上昇や外国などに転嫁されてきました。その結果として、世界の傾向に反してほぼ例外的に水揚げ量は減り続け、漁業も水産業も衰退が止まりません。

一方で、世界では水産業は成長産業です。残された時間はあまりありませんが、水産資源管理に関して、正しい情報を提供し続けることで一人でも多くの方に「科学的根拠に基づく資源管理」の重要性に気づいていただくことを願っています。

片野 歩 Fisk Japan

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かたの あゆむ / Ayumu Katano

早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)他。

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