年金改革で混乱・フランスに潜む民主主義の矛盾 独裁から民主へ、民主が独裁を生むというジレンマ

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確かに、大統領や首相が議会のチェックを乗り越えて何事も自由に決定するようになれば、国民議会は不必要となる。このことを物の見事に実践に移したのが、ルイ・ナポレオンであった。彼は国民に直接訴えることで、国民議会の権力を無効にしたのである。

議会は国民を裏切って、普通選挙を廃止しようとしていると訴え、民衆の支持を得ることに成功したのだ。ルイ・ナポレオンがクーデターの後も国民の支持を受けることができたのは、こうした狡猾な方法をとったからであった。

大統領と議会の逆の現象

しかし、今回はまったく逆になっている。議会のほうが国民に直接訴えていて、大統領のほうが国民から乖離しているのだ。それは2022年の大統領選、そして議会選挙で、大統領が国民の多数派ではなくなっているからである。

ドゴールの時と同じように、マクロンは辞任するか、そうでなければ、せめてこの法案を国民投票にかける必要があるのかもしれない。

しかし、それもしないとすれば、まさに大統領は独裁ということになりかねない。そうなると結局、第5共和制憲法も独裁者を生み出したことになる。こうしてフランスの民主主義の歴史に流れる、独裁と民主主義とのトラウマはまた今後もずっと続くことになるのだ。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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