「人生終わった」から抜け出す人が口にする一言 がん患者の心を救う「ユー・モア」の本当の意味

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そのわけは、かつて不治の病だったがんのイメージが、なおも根強く残っているためなんですよ。それで、自分ががんだと知ると、「どうせ死ぬのなら苦しみたくない」と、治療を拒否する人さえ、珍しくはないんです。

どうしてこんなに、「人生が終わった」と思ってしまう人が多いのか。それは、「死」の恐怖について慣れていないからです。

たいていの人は日常生活で「死」を意識することはあまりありません。なのに突然、「がんです」と告げられれば、それまでの人生で初めて「死」を強く意識させられます。それまであまり深く考えたこともなければ、慣れてもいない「死」の恐怖にさらされるんですから、それに飲み込まれてしまうのは仕方がないところなんですね。

けれど、思い詰めるあまり、

「どうせ私の苦しみは誰にもわからない」

と思うようになると、この恐怖の出口が見えなくなります。そして、孤独になって、底なし沼のような暗闇の中を、文字どおり死ぬまで、さ迷うことになりかねないんです。

「ユー・モア」の本当の意味

実は、この孤独が、がんという病気そのものよりも恐ろしいんです。

この恐怖とどのように向かい合うのか。

これが、がんと付き合う際の最も重要なポイントなんです。

孤独の暗闇にとらえられそうな人を見ると、私はこのように言うことがあります。

「ユー・モアが大切ですよ」

たいていの人はこう聞くと、「笑って楽しく」という意味だと思います。けれど、私は首を横に振り、このように話すんです。

「ユーは英語で二人称の『あなた』、つまり『目の前の人』という意味ですよね。そして、モアは『もっと』という意味ですから、続けると、こういう意味になります。

『目の前の人を、もっと、大切に』

つまり、自分のことばかり考えず、周りの人のことをもっと大切にしてください、ということなんですよ」

これを聞くと、冗談だと思ってただ笑うだけの人もいますが、これをきっかけにして、大事な、あることに気づく人が多いんです。

それは、「自分は一人じゃない」という事実です。

がん告知のショックで、頭の中が自分の病気とそれによる自分の死に占領されてしまうと、他の人のことを全く考えられなくなります。すると、心がどんどん閉ざされていき、孤独という心の闇の中に落ちてしまうんです。

死の恐怖とは孤独の恐怖です。

先ほども言いましたけれど、がんになって本当に怖いのは、ここなんですね。

けれど、自分以外の人が近くにちゃんといてくれることに気づくと、孤独という闇を作っていた濃い霧が段々と晴れてくるんですよ。

孤独から救ってくれるのは、何よりも、他の人が近くに存在するという事実です。

「ユー・モア」

ほとんどダジャレのような言葉ですが、もしがんになったら、どうか、この言葉を思い出してください。闇の出口がきっと見えます。

樋野 興夫 順天堂大学名誉教授

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ひの おきお

順天堂大学名誉教授、新渡戸稲造記念センター長、恵泉女学園理事長。1954年島根県生まれ。医学博士。癌研究会癌研究所、米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センター、米国フォックスチェイスがんセンターなどを経て現職。2002年癌研究会学術賞、2003年高松宮妃癌研究基金学術賞、2004年新渡戸・南原賞、2018年朝日がん大賞、長與又郎賞。2008年順天堂医院に開設された医療現場とがん患者の隙間を埋める「がん哲学外来」が評判を呼び、翌年「NPO法人がん哲学外来」を設立し、理事長に就任。これまで5000人以上のがん患者と家族に寄り添い生きる希望を与えてきた。その活動は「がん哲学外来カフェ」として全国各地に広がっている。

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