相鉄「都心直通線」一番得したのはどの鉄道会社? 成り立ちを振り返ると、おぼろげに見えてくる

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同法は既存の鉄道施設を有効活用することで速達性向上や駅施設の利用円滑化を図ることを目的とし、国土交通大臣の認定を受けると、国と地方公共団体から事業費の3分の1ずつの補助が得られる。残額は鉄道・運輸機構が調達して建設、鉄道事業者は機構に線路使用料を払うことで償還してゆく上下分離のスキームとされている。この新法を前提にして直通線案は具体化していった。

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この途上で東急が計画に参画した。元来、神奈川東部方面線構想を表舞台に上げたのは行政側であり、かつ利便増進法に則れば神奈川県や横浜市も巨額を支出する立場になる。その際、相鉄・JR直通案では途中で合流する横須賀線区間の需要や列車頻度など諸々からラッシュ時に1時間最大4本、日中は同2本と考えられたため、拠出に対する運転本数の少なさが引っ掛かった。そこで横浜市が東急へ働きかけたと言われる。こうして相鉄・JR直通線に続く「相鉄・東急直通線」案が具体化したという経緯である。

相鉄が筆頭に見えるプロジェクトだが…

ところで、横浜市が東急を誘ったという順序には疑問も呈される。東急も東横線沿線の成熟化は重大問題であり、その対策として手足を伸ばし、通過人員を増やす作戦に出た。それが東京メトロ南北線・埼玉高速鉄道、都営三田線と結んだ目黒線(2008年直通)、東武線、西武線ともつながる東京メトロ副都心線との直通(2013年)である。

ゆえに相鉄と結べば、横浜乗り換えで得ていた相鉄客のJR直通線への逸走を防げて、むしろJR利用者を取り込めるし、何より新横浜で東海道新幹線にアクセスすれば、通勤鉄道を超えた利用価値が生まれる。さらに横浜アリーナや日産スタジアムの観客輸送についてもシェアを握れる。直通線はノドから手が出るほど欲しかったはずで、諸般の事情から行政先行と見せかけたのではないか。利便増進法に結び付けられる影響力も相鉄より東急のはずだ。今回の事業は一見すると相鉄が筆頭の出来事だが、じつは東急が最大のカギを握っていたのかもしれない。

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「相鉄・JR直通線」と「相鉄・東急直通線」はどちらも2006年5月に国土交通大臣に申請され、前者は2006年11月、後者は2007年1月に速達性向上計画の認定を受けて、まずは2010年3月、相鉄・JR直通線から起工された。

JR直通線は当初2015年度の開業とされたが、横浜羽沢駅構内の線路移設に伴う調整と、昼夜を問わず貨物列車が走る中で工事時間が制約されたことを理由に2018年度に変更され、さらに用地取得や工事の難航から実際は2019年11月30日に開通した。東急直通線も2019年4月開業予定だったが、こちらも用地買収の遅れや鶴見川付近での難工事のため、今回の2023年3月18日となった。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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