「寡黙な上司」の下で働くのが「無理ゲー」な理由 自己開示しない管理職が心理的安全性を下げる

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僕は、客と店員の関係に限らず、どんな人間関係でも自己開示は必要だと思っていますが、職業によっては、ミステリアスな部分を戦略的に残しておきたい場合もあるでしょう。たとえば、俳優やタレントなどの人気商売は、すべてが開けっぴろげになっているより、知らないからこそ想像や興味がかき立てられるし、魅力的に感じるものです。

でも、一緒に仕事をする間柄では、自己開示しておくほうが物事はスムーズに進みます。特に、上に立つマネジャーが自分の好みや仕事のやり方を周りに伝えておくと、メンバーはとても助かります。

「マネジャーが好む仕事の進め方はこれだけど、こうするのは嫌がる」「これにはすごくこだわりを持っている」といったことが事前にわかっていれば、メンバーは「このやり方で問題ないだろうか」と気を揉んだり、「マネジャーがどんな判断をするかわからないから、いくつか別の選択肢も考えておいたほうがいいな」と忖度したりせずにすむので、心理的安全性が高まり、仕事の効率や生産性も上がるのは間違いありません。構造が明確だからです。

自己開示とは、自分の「トリセツ」を渡すこと

このように考えると、マネジャーの自己開示は、メンバーに自分の「取扱説明書」、すなわち「トリセツ」を渡すことにほかなりません。

逆に言えば、自己開示をしないマネジャーは、「俺のトリセツは絶対に渡さないぞ」と駄々をこねているようなものです。そのくせ、「うまくやれ。失敗するな」とメンバーに成果だけは求めるのです。上司のトリセツがわからないまま、上司の期待に応えなければならないメンバーの心理的安全性が、とんでもなく低いことは想像に難くありません。

最近は、トリセツに頼らなくても簡単に取り扱える家電や道具が増えています。そしてマネジャーの取り扱いも、必ずしもトリセツがなくてもできるかもしれません。

ただしそれはメンバーがものすごく優秀であるか、メンバーが相当の気苦労と精神的負担、試行錯誤を重ねてマネジャーのトリセツを独自に完成させたからでしょう。メンバーが自身の心理的安全性を犠牲にして頑張ったであろうことは想像に難くありません。

自分のトリセツをメンバーに渡すマネジャーが少ないのは、その必要性にそもそも気づいていないからです。たとえば、「この資料を作って」とメンバーに指示するとき、「自分はこういうスタイルが好きだから、資料はこういうふうに作って」と期待する完成イメージとセットで伝えているマネジャーはどれくらいいるでしょうか。

期待する完成イメージの説明もなく、「言わなくてもわかるよね」「それくらい察してよ」と丸投げするのは、厳しい言葉かもしれませんが、マネジャー側の甘えだと僕は思います。

ピョートル・フェリクス・グジバチ プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者

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​Piotr Feliks Grzywacz

ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、Google Japanでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。ベストセラー『ニューエリート』(大和書房)、『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)など著書多数。

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