ユニクロ、絶好調決算には「死角」があった 強気の値上げは顧客に受け入れられるか

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死角は2つある。ひとつが、国内ユニクロの相次ぐ値上げだ。同社は円安による衣料品の調達コストアップや、中国ほか生産国での人件費上昇などを補うため、今年の秋冬商品の約2割を値上げすると発表。全体として平均で約10%もの値上げになる見通しだ。2014年秋冬の商品でも平均5%値上げしており、2年連続での値上げになる。

岡﨑健・グループ上席執行役員CFOは「為替の長期予約をしてきたが、スポット上昇幅が大きく、原価アップを避けられない」と説明する。実際、国内ユニクロ事業の下期業績見通しについては、原価アップの影響から下方修正した。柳井会長は値上げの影響について、「(客離れを)及ぼさないと思う。円安もあり日本で売っている商品は世界で一番安い」と強気な姿勢を示したうえで、「付加価値が認められない限り売れない。われわれはよりよい品質を目指したい」と商品の質をさらに上げることで、消費者から支持を得たい考えだ。

柳井会長は2度目の値上げにもあくまで強気だ(写真は14
年10月の大和ハウスとの提携会見。撮影:風間仁一郎)

だが、これ以上の値上げが消費者に受け入れられるかどうかは、不透明である。既存店の客数をみると、2014年9月~11月期(第1四半期)も、同12月~2015年2月期(第2四半期)も、前年を下回ったまま。「これまでのような単価上昇で客数減を補う構図は限界」、との声も市場関係者から出ており、値上げに踏み切る今秋以降は苦戦する可能性もある。

もう一つが、海外事業のオペレーションだ。成長を続ける海外だが、中国やアジアは好調な反面、欧米では軟調など、地域差がある。

特に米国事業の立て直しが課題である。上期は売上高と粗利率が計画を下回り、赤字幅が拡大、黒字化が遅れている。下期見通しでは、海外ユニクロ事業を下方修正しており、その大半が米国事業の下振れによるもの。柳井会長は「世界一の市場である米国を最優先にして、全社をあげて事業をサポートする」と、テコ入れに必死だが、これまでは実績を挙げていない。

積極出店でブランドを訴える手法

その手法は、まず積極出店を続けて、ブランド構築を先行させるというものだ。年間約20~30店の出店を継続する方針で、2015年秋にはシカゴに旗艦店がオープンするほか、デンバーやシアトルにも進出。2016年春にはワシントン、同年秋にはカナダへも進出する。その結果、3年後には、売上高1000億円、営業利益100億円を目指す。ただし、出店加速しながら、既存店の立て直しができなければ、「GAP」や「H&M」など、世界のライバルとの競争に打ち勝つのは難しい。

さらには、相次いで買収したユニクロ以外の海外グローバルブランド事業も、苦戦している。前期に多額の減損を計上した米高級ジーンズ「Jブランド」は、今期も計画を下回って赤字幅を拡大。仏衣料「コントワー・デ・コトニエ」や、仏下着「プリンセス タム・タム」も、軟調に推移している。こうしたブランドの再建も急がれる。

では柳井会長自身は死角を何と考えているのか。「いろんな問題が起きても、愚直に改善しているから、今がある。その情熱がなくなったときが、一番の死角だ」と語る。

その柳井会長もすでに66歳となり、「人間は老いていくもの」とも明かしている。はたして “柳井商店”は、今後も成長を続けられるのか

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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