「政府の役割とは何か」古典派経済学に学ぶ本質 J.S.ミルの思想から考える5つの重要な問題点

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国会議事堂(写真:リュウタ / PIXTA)
貧困、格差の拡大や地球環境への過剰な負荷など、資本主義の持続可能性についてさまざまな議論が提起されています。しかし近代国家誕生以来の経済学の歴史を振り返ると、それらはすでに経済学者によって議論されていた問題であることがわかります。杏林大学総合政策学部教授の西孝氏の新著『いまを考えるための経済学史 適切ならざる政府?』から一部抜粋・再構成し、自由放任経済下で労働者の貧困が大きな問題になった19世紀に「政府の役割」を論じた主流派の重鎮、J.S.ミルの思想を振り返ります。

マルクスとエンゲルスが『共産党宣言』を出版したまさに同じ年に、当時の主流派の経済学の側からも現実への回答というべき本が出版されました。J.S.ミル(John Stuart Mill, 1806〜1873)の『経済学原理』(1848)です。

彼は単なる経済学者であることを超えて、スケールの大きな社会思想家でありました。しかし同時に、疑いもなく経済学者でした。

最後の古典派経済学者

彼はアダム・スミスの経済思想の継承者であるという意味で、いわゆる主流派の重鎮でした。それは今日では「古典派」と呼ばれる人びとであり、彼はまさに最後の古典派経済学者であったと言っていいと思います。

したがって、彼の経済学は「自由放任主義」が原則です。しかし、時代と彼の知的誠実さは、単に同時代の有象無象がわめき立てるドグマと化した自由放任主義をただ繰り返すことを、彼に許しはしませんでした。彼が「最後の」古典派経済学者である由縁です。

要するに、laisser-faire[自由放任]を一般的慣行とすべきである。この原則から離れることは、いやしくも何らかの大きな利益によって必要とされるのでないかぎり、すべて確実に弊害をもたらすのである。(J.S.ミル『経済学原理』(五)302ページ)
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