まるで宮殿、インド「世界遺産の駅」の豪華絢爛 ムンバイのターミナル、英印の建築様式が融合

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筆者は今年2月にCSMTを訪問した。ムンバイを訪れたのは3回目だが、過去2回も同駅発着の長距離列車を利用したものの、歴史的建築物として見学を受け入れるシステムはなかったと記憶している。

「宮殿建築」とも称されるだけあって、あらゆる柱に施された彫刻は目を見張るが、やはり最も注目すべきは建物中央のドーム部分の螺旋階段と吹き抜けだろう。筆者がかつて訪れたインド国内のマハラジャの宮殿はやや傷みが目立った。それらの宮殿よりもCSMTはより新しいため複雑かつ精緻な装飾がオリジナルのまま残っており、豪華さという点でマハラジャの宮殿を超える雰囲気さえもある。

ムンバイCSMT チケットカウンター付近
上から見下ろしたチケットカウンター付近。柱や回廊の手すりの装飾が見事だ(筆者撮影)

欧州諸国には100年以上を経た歴史ある駅も多数残っているが、建築物の価値としてそのいずれをも凌駕していると言って過言ではない。「これぞ駅舎として世界で唯一の世界遺産」と言わしめるに十分な風格を備えている。

大英帝国の栄華を今に伝える

CSMTの駅舎は完成して130年以上が経つものの、完成当時の建物がほぼ原型のまま残り、現在も旅客輸送用の施設として使われていることに目を見張る。19世紀に造られたテラスから、指定券売り場に並ぶ人の列や、ホームに急ぐ人々の様子をみると、航空機がなかった時代の鉄道全盛期の面影が存分に感じられ、まるで大英帝国の栄華さながらの歴史絵巻をこの目で見ているような錯覚を覚えた。

ムンバイでは高速鉄道、いわゆる「インド新幹線」の建設準備が進んでいる。高速新線の新駅は、市内北部の新興開発エリアである「バンドラ・クルラ・コンプレックス(Bandra Kurla Complex、BKC)」の一角に地下駅として設けられることが決まっており、CSMTには手を付けないこととなった。

インドの高速鉄道は大きく分けて7つの路線ができることになっているが、着工した部分はわずかで、本格的な営業運転はまだ先となる。そんなこともあり、130歳を過ぎたCSMTは引き続きインド西部の巨大鉄道ターミナルとして君臨し続けることになるだろう。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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