「チヤホヤされたけど虚しい」港区女子の選んだ道 現役慶應生がルッキズムに抗い、手にしたもの
キリギリスは雑誌を読み、バイトをしてコスメや服を買い込み、次第に垢抜けてゆきました。かわいい同期の女の子から順に先輩の男たちの飲み会に呼ばれ、そして食われてゆくような、そんなテニサーにはびこるルッキズムの空気の中で、彼女自身の価値観にもその悪しき時代の匂いが染み付いてゆきました。
キリギリスがノートを借りに来なくなったことに、アリは気付きました。キリギリスが悪い噂をよく聞くイベサーの連中とつるんでいるのを見かけるようになりました。先輩の紹介で、顔採用で有名な道玄坂の会社でインターンも始めて、社会人が焼肉を奢ってくれる謎の会なんかにもよく行くようでした。彼女の世界は、もはやスペイン語の狭い教室を飛び出していました。
西麻布からのタクシーの中で、キリギリスが考えたこと
アリの世界は閉じたままでした。ルッキズムも含め、女子大生を記号的に消費する世間の風潮に早くも嫌気が差していました。あるとき律法会のイケてないOBから「同期の本店勤務エリートメガバンク行員呼ぶからJD社会人合コンやろうよw」と言われ、その汚く弛みきった口角を見て、吐き気すら覚えました。
しかし賢いアリは、しょせん私文の自分には専門性で勝ち抜くだけの力はなくて、就活も社会も結局はコミュ力なのだと早々に理解していました。そして、生まれつきコネがあるわけでもない自分には、せいぜい女子大生ブランドを活かして社会人に媚を売るのが最短経路なのだろうとも理解していました。
アリはそんな社会の悪意が引いた補助線に抵抗しました。彼女は何を思ったかTACに通い始めました。専門性がなければ作ればいい。東大に落ちたときに失くしてしまった自分への期待を、彼女はあのとき以上の努力をもって取り返そうとしました。彼女は公認会計士を目指すようになりました。
深夜3時。西麻布からの帰りのタクシーで、キリギリスは考えていました。「人脈」は広がりました。時価総額カードバトルゲームができるくらい、有名経営者がLINEの「友だち」にいました。でも彼らにとって私は私ではなく「現役慶應生」という顔のない存在なのだと、賢い彼女は気付いていました。