EV普及で「オーストラリア」が超重要国になった訳 日本にとっても大事なリチウム供給国になった

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こうしたことを背景にBMWは「オーストラリア産リチウム」を使用することを明言しており、自社の「サスティナビリティ」、つまり持続可能な開発への貢献度をアピールしています。

特定の国や地域での産出がみられる場合、鉱山開発のための投資が行われるのが常ですが、なかなかそれは難しいようです。南アメリカ大陸のリチウムトライアングルを考えれば、まだまだ近い将来の話ではなさそうです。

転換を迫られるオーストラリアの石炭産業

電気自動車の開発・普及が進むとともにリチウム需要が急増し、資源供給地としてのオーストラリアの重要性が増します。

そこでオーストラリアでは、それまで石炭を採掘していた鉱山従事者がリチウムを採掘するようになっています。「エコ」「気候変動」「環境保護」など、実に耳に心地の良い言葉の前には、個人の持つ理念や信条はねじ伏せられてしまうのが現実です。

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オーストラリアの石炭採掘業者には、石炭への愛着があります。長年、オーストラリアの経済を支え、電力を支えている資源です。オーストラリアは今もなお、石炭火力発電が中心の国です。確かに1人あたり二酸化炭素排出量が多い国ではありますが、人口規模が2500万人程度と小さく、国としての二酸化炭素排出量はそれほど多くはありません。

オーストラリアの人たちにすれば「俺たちってそんなに二酸化炭素を出していないのに、なぜ愛着ある石炭採掘を止めてリチウムを掘らねばならんのだ?」との想いがあるでしょう。

「正しい行動」とは一体何なのか? 豊田章男会長の立場では「雇用を守り、日本経済を盛り上げていくこと」でしょう。環境保護団体の立場では、「脱炭素社会」の構築でしょう。日本で電気自動車の開発を行ってもカーボンニュートラルにはなりませんし、個人的にはカーボンニュートラルはヨーロッパ諸国が仕掛けた「トラップ」であると思っています。

宮路 秀作 代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員

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みやじしゅうさく / Shusaku Miyaji

鹿児島市出身。共通テストから東大地理まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当。担当講座は全国の代々木ゼミナール各校舎・サテライン予備校にて放映される。たコラムニストとして、Yahoo!ニュースなど各メディアにコラムを寄稿、書籍の執筆やメルマガの発行なども手がける。2017年に刊行した『経済は地理から学べ! 』はベストセラーとなり、同年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。近年は、ラジオ出演やトークイベントの開催、YouTubeチャンネルの運営など幅広く活動。

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