成年後見は高齢者の財産を守っているのか大疑問 支援を求めたのに大事な資産を失った90歳女性
2016年に議員立法で成立した成年後見制度の利用の促進に関する法律では、制度の利用促進を目的とする基本計画を策定するよう市町村に求めている。その結果、各地域の社協が成年後見制度の相談窓口を担うことが増えた。ところが、「成年後見制度についての専門知識を持つ職員はほとんどいないのが現実」(社協職員)だという。
社協に生活相談に行った結果、大事な資産を失った高齢者もいる。
東京都目黒区の斉藤ハルさん(仮名、90)は、生まれたときから80年以上、同じ家に住み続けてきた。昔ながらの木造家屋で修繕を重ね、両親が亡くなった後も暮らしてきた。「戦争中には、反戦運動をしていた医学生を憲兵が捕まえに来て、庭から逃がしたこともあったのよ」(斉藤さん)と話す、思い出が詰まった家だ。
それが今では、同区内のマンションで一人暮らしをしている。住み慣れた自宅の土地部分は別の人の持ち物だったため、立ち退きを求められた結果だ。
斉藤さんは、近所の買い物や通院は一人でできる。認知機能も問題ない。ただ、独身で身寄りがいない。そこで、立ち退き拒否の協力を得るため、目黒区社協の権利擁護センターへ相談に行った。権利擁護センターは、高齢者や障害者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、悪徳商法や日常生活のトラブル解決を支援する組織だ。
頼んでもいないヘルパーが派遣
しかし、職員から的確な助言はなく、弁護士を紹介される。やがて弁護士は「立ち退きが前提」との条件で斉藤さんと代理人契約を結び、地主との交渉を開始。転居先として、目黒区内の3280万円のマンションを薦められ、購入した。弁護士自身が顧問を務める不動産会社の紹介する物件だった。
地主が提示した立ち退き料は3150万円。弁護士からは500万円以上の報酬を求められ、さらに引っ越し代などで100万円近くかかった。斉藤さんは今でも納得がいっていない。
「立ち退きたくなかったのに、700万円以上の赤字も出てしまった。今後の生活が心配で……」
そのほかにも、介護事業所から頼んでもいないヘルパーが派遣され始め、月に7万円、10万円といった請求書が届くようになった。介護事業所の職員から「養子にしてほしい」と言われたこともあった。
弁護士は、斉藤さんと任意後見契約を結び、遺産を目黒区に寄付するという遺言の執行人にもなった。いずれも、効力が発生すると弁護士への報酬が必要だ。
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