グローリーが通貨処理機で世界最大手になれた訳 世界トップブランドを実現した買収戦略に学ぶ

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グローリーの経営の特徴はカンパニー制を用いた自主性尊重にある。旧タラリスのマネジメントを米国、欧州、アジア担当の責任者、そして本社執行役員などに積極的に登用し、給与や賞与も従来どおり個人ごとに市場価値にもとづいて取り決めるなどインセンティブ・プログラムも設計している。

また、海外の子会社から、日本本社側の生産性が低いのではないかと指摘されることもあるという。このような指摘が出てくるのは経営の透明性が高く、社内で健全な議論が行われていることの表れで、カンパニー制のメリットでもある。

新市場形成への新たな戦略

タラリス買収によって海外での成長を実現したグローリーは、2028年に売上高を現在のおよそ2倍の5000億円に拡大することを目標としている。

タラリス買収後も海外で同業者や販売代理店を買収し、「GLORY」ブランドの浸透と直販、直保守サービス網の拡張に余念がない。

2021年には米国の同業大手のレボリューション・リテール・システムズを約210億円で買収し、米州地域での売上高は、全社売上高の2割を超えた。

グローリーはこれまで現金処理の効率的な運用を目的に製品やソリューションの提供を行ってきた。そして、今、世界的なキャッシュレス決済の拡大を見据え、海外カンパニーは、新たな成長の柱となる事業の探索と投資を先導している。

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2020年にはドイツ フィンテック企業Cash Payment Solutionsとフランスのセルフサービスキオスク機器メーカーのAcrelec Groupを買収した。

2021年には現金の預入や引出し、決済などのシェアードサービスを提供する英国のUnified Financialに出資している。

また2022年には小売・飲食事業者の売上金入金の代行サービスを提供するカナダのClip Moneyに出資している。

タラリス買収は通貨処理機市場における事業拡大に大きく寄与し、「GLORY」は世界のトップブランドになった。そして、グローリーは長期ビジョンの中に、2028年までに多様な決済手段の提供と、通貨流通の新たな管理スキームの構築を試みることを掲げた。

海外カンパニーの役割は、タラリス統合時に目指した規模の拡大から、海外のスタートアップへの投資やアライアンスによる新市場形成へと拡がっている。

買収が成功した5つの理由

タラリス買収がうまくいった理由をまとめると、次のようになる。

1、能力重視を貫きタラリスの有能な営業や保守の人材を維持して戦力とした。
2、製品ブランドを「GLORY」に統一、海外での開発から販売、保守事業を迅速に統合した。
3、国内事業と分離しインセンティブ報酬などを継続。海外カンパニーの経営成績を開示し、買収後も収益貢献への動機付けを行った。
4、追加買収を行うことで旧タラリスの販売、保守網を拡充し現地での競争力を高めた。
5、成熟した通貨処理機器市場の寡占に留まらず、海外カンパニーを新事業探索に活用した。

グローリーは世界市場でのトップシェア実現と、新事業開拓に海外M&Aをフルに活用している。

松本 茂 京都大学経営管理大学院特命教授、城西国際大学大学院教授

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まつもと しげる / Shigeru Matsumoto

神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。PwCディレクター、英HSBC投資銀行本部長、同志社大学大学院准教授などを経て、現職。20年にわたり、M&Aアドバイザーとして、米国や中国など20カ国50を超える海外企業とのクロスボーダー案件に助言。著書に『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』(東洋経済新報社、2014年、第9回M&Aフォーラム正賞受賞)。2020年、京都大学経営管理大学院より優秀教育賞受賞。

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