インフレに「強い業種」「弱い業種」の意外な実態 統計的手法で「上がる業種」「下がる業種」を抽出

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それでは、実際に株式投資を検討する際に、インフレ場面ではどのような業界への投資が効果的なのか、調べてみました。物価が上昇するなかで株高が大きい、あるいは株安が大きい業種にはどのようなものがあるのか統計的な手法で探ってみました。

上表を見てみると、消費者物価指数が上昇したときに株高が大きい業種の第1位は鉱業でした。物価が前年比で1%上がると、鉱業の株価も前年比で平均21.2%上昇するという関係です。インフレにより資源高となれば、保有している資源の鉱区にかかる権益の価値が高まるため、鉱業各社に恩恵が大きくなるからです。

第3位の石油・石炭製品も同様の理由によりメリット業種として挙げられます。物価上昇で原油価格も上がると、石油元売り・精製各社は在庫(備蓄)評価益が高まることで株高が期待されます。基本的にはインフレ場面では、資源高が見込まれることから、資源株が効果的な投資対象となることが分析結果から示されます。

ただ、第2位の空運業は意外な業種です。原油価格が上昇してしまうと航空燃料費が上昇してデメリットとなるからです。とは言え、第2位となった理由は、景気が回復することで、モノに対する需要が増えて物価が上がるのですが、同時に景気回復場面で旅行需要も増えることからで空運業が株高となってきたのかもしれません。

物価上昇時に下落が大きい業種

反対に、物価上昇時に下落が大きい業種を見てみましょう。第1位は電気機器となりました。物価が1%上昇すると平均して11.3%株安となります。物価が上がると、電気製品の製造コストも上がります。これを速やかに製品の価格に転嫁することは難しいため費用が増えます。

また、価格転嫁のために製品価格を上げると、消費者の買い控えにもつながってしまいます。そうなると売り上げが落ち込んでしまいます。費用が増える一方で、売り上げが減るため、「売り上げ-費用=利益」が減ってしまうことから、株価もこれを反映して下落する傾向と見られます。第2位のサービス業、第3位の海運業も同様の観点で捉えられます。

つまり、インフレでデメリットが大きい業種とは、物価上昇で企業のコストが上がってしまうのですが、それに対応して速やかな価格転嫁が難しく費用が増えてしまい、また価格転嫁をすると売上数量が落ち込んで売上高が減りやすい業種です。

株式投資はインフレに強いとは言え、メリット業種、デメリット業種を頭にいれておく必要があるでしょう。

吉野 貴晶 ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長

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よしの たかあき / Takaaki Yoshino

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で、記録的となる16年連続で1位を獲得した後、ニッセイアセットマネジメントに入社。大学共同利用機関法人 統計数理研究所のリスク解析戦略研究センターで客員教授を兼任。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(MBAコース)で経営戦略、企業評価とポートフォリオマネジメントの授業の教鞭も取る。代表的な著書に『No.1アナリストがプロに教えている株の講義』(東洋経済新報社、2017年) 。

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