青い森鉄道が示すローカル線「上下分離」の光と影 最長の並行在来線、中心市街地との連携不可欠

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青い森鉄道は、より大がかりな増収策も実施してきた。2011年春、青森県立青森工業高校が青森駅西側の篠田地区から市東部の野内地区へ移転したのに合わせ、野内駅を約1.5km西側の同校近くへ移転させて通学客の確保を図った。

2014年3月には青森―東青森間の筒井地区に筒井駅を新設した。地元紙・東奥日報の報道によると、青森県立青森高校の近隣という立地にも恵まれ、同年4月の1日平均乗降客数は658人と、事前に想定されていた519人を大きく上回った。

青森市中心部の略図(地理院地図から筆者作成)

その一方で、足踏みを続けている新駅構想もある。コンパクトシティ政策を掲げてきた青森市は、徒歩と青い森鉄道利用を組み合わせた移動を実現するため、筒井駅に加え、青森―筒井間にある旧国鉄・青森操車場跡地の「青い森セントラルパーク」への新駅設置を要望してきた。

セントラルパークは青森市民病院などの施設に近いうえ、市は2024年7月完成を目指して多目的アリーナを建設している。さらに、青森県立中央病院と青森市民病院の統合で誕生する新病院の建設候補地の一つともなっている。

だが、青森県は2023年3月現在、新駅設置の可否について態度を明らかにしておらず、今後の検討結果が注目される。

青森市中心で進む再開発

足下に忍び寄っている大きな課題は沿線の人口減少と高齢化だ。青森県が公表している推計人口によると、2018年2月~2023年2月の5年間の減少率は、青森市が県庁所在地ワースト級の5.0%、八戸市も4.0%に達する。駅のある沿線9市町全体の人口は、約64万人から61万人へ4.8%減少している。

需要が先細りしかねない中、青森市中心部で進む大規模な市街地の再開発に期待がかかる。青森駅前では2024年度完成を目指し、商業施設が入居する駅ビルの新築が進む。駅から徒歩で東へ5分ほどの新町1丁目では、複合商業施設「Three」が今年4月にオープンする。さらにその東側、青森県庁近くの新町2丁目でも、ホテルとオフィス、マンションが入居する再開発ビルが近く完成予定だ。

これらの施設利用が青い森鉄道の利用とつながれば、大きな需要を開拓できる。例えば青森市の中心市街地活性化協議会と青い森鉄道の連携によって、街と鉄路双方の将来が開けるかもしれない。

3月22日には青森駅西口駅前広場が完成した。市営バスの乗り入れが実現、路線の一部が再編されたことで、市営バスと青い森鉄道の連携のポテンシャルが高まった。一方の八戸市も、市中心部のデパートが2022年に閉店するなど、機能の維持に危機感が強まっている。八戸駅と市中心部を結ぶJR八戸線と青い森鉄道が連携すれば、中心市街地の振興につながる可能性もある。

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