震災「復旧」や「復興」を超えるビジョン「創新」が必要だ--後藤新平、カリフォルニア州サンタクルーズに学ぶ
東日本大震災における未曽有の被害規模や、現在の社会情勢を鑑みるに、単なる「復旧」や「復興」をも超えたビジョンが求められると考える。そのビジョン作りのヒントを、関東大震災からの復興を担った後藤新平と1989年の地震で被害を受けた米国カリフォルニア州サンタクルーズの例から考えてみたい。
新しい日本の模範となる地域のビジョンを
まず、現下の社会情勢については、大きく以下の3点が指摘できる。
1 経済が簡単に成長する「右肩上がり」の状況ではなくなっている
2 高齢化・少子化に直面している
3 政府の財政が極端に悪化している(関東大震災時点でも財政は悪化していたが)
これらに対処するためには、旧来の復旧・復興の概念を超えた、新しいビジョンが必要であることは明らかだろう。そこで、私は、「復興」でなく「創新」というキーワードを提案したい。中国語では「創新」は英語のイノベーションの訳であるが、今こそ新しい時代の日本にふさわしい地域社会を創ることが求められている。
なお、結論を先に述べれば、そのモデルは、上記3点のような社会的な制約条件の中で、「単純な住宅や社会インフラといったハードウエアの復旧」を行うのみならず、「お互いに助け合う地域コミュニティの再生などソフトウエアの復興」を進める、ということになろう。それは、日本全体に普及できる「新しい地域社会のモデル」であるといえる。
住民が共有できるビジョン作りが必要
先に述べた3つの制約条件の下では、政府が集権的に復興計画を立案し、大型の公共投資によって画一的な復興を図るというこれまでのやり方が不可能なのは明らかだ。つまり、創新のためには、「どんな地域社会を創るか」というビジョンを住民が共有し、実現することが必要である。
つまり、地域主権を確立し、地域コミュニティを再生することで、自立・自律する地域を今こそ創るべきだろう。その際、1989年の地震で大きな被害を受けたカリフォルニア州サンタクルーズ地域の復興が参考になる。
サンタクルーズでは住民が参加する復興委員会を立ち上げ、議論し「ビジョン・サンタクルーズ」という復興計画をまとめた。その計画はみんながわかるように小説と絵を組み合わせたものだった。「教会の横の広場でお年寄りが休んでいる、その隣で猫があくびをし、道には花が咲いている」といった計画を策定したのである(山中茂樹『いま考えたい 災害からの暮らし再生』 (岩波ブックレット)参照)。日本でもこのような住民が夢を持てるような復興計画のデザインが必要だ。