魅力的でも買われない商品を変える必要な視点 変化を嫌う人を動かすには「抵抗」を解消する

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結局、この問題は会社の魅力とは無関係であることが判明した。人々は顧客サービスや質の高いデザイン、価格の安さなどをとても気に入っている。どれも購買意欲をかき立てる要素で、新規購入の「燃料」となるものばかりだ。しかし、「抵抗」が買い物客の行く手をさえぎり、希望する商品を購入できなくしていたのだ。

新しいソファの購入を阻んでいたもの(物語の悪役)は、自宅に今あるソファだったのである。買い物客の行く手に立ちはだかっていた「抵抗」は、古いソファをどうすればよいか分からないことだった。ゴミ収集車は古いソファを持って行ってくれるのだろうか? 持って行かないとしたら、誰に頼めばよいのだろうか? 頼めたとしてもその人はソファを自力で運び出せるだろうか? 運び出せないとしたら、誰が手伝ってくれるのだろうか? 新しいソファが欲しいと思っているとしても、今あるソファをどうするかが決まらない限り、購入に踏み切れない買い物客が圧倒的に多いのである。

私たちは顧客への聞き取り調査で何度も同じ話を聞かされた。たとえばこうだ。「パートナーと私は自分たちでデザインしたソファを買いたくてたまらなかったのに、今あるソファをいとこが引き取ると言ってくれないから購入できなかった」。あるいは、「私は自分でデザインしたソファがとても気に入ったけれど、居住地域の粗大ゴミの日が来てからでなければ注文できなかった。誰かが古いソファを運び出してくれるまで、自分ではどうすることもできなかった。狭い家に大きなソファが2つもあっては生活できないから」

あなたなら、こうしたヒントをどう活かすだろうか。ソファの特色を増やしても問題は解決しない。価格を下げても同じことだ。この問題を解決するには「抵抗」を取り除くしかない。私たちが提案したのは、「買い物客の家にあるソファを引き取り、困っている家族に寄付する」と先回りして申し出る、という方法だった。「抵抗」を減らすこのシンプルな戦略の結果、成約率は大幅に上昇した。

入院中の子供へ手紙を送る活動への参加を促すには

「抵抗」は、その威力と影響力にもかかわらず、発見しにくいものであるため見過ごされやすい。弾丸を推進させるための火薬の爆発音に気づかないふりをすることはできないが、飛び出した弾丸が受ける風の抵抗は目に見えない。これが「抵抗」の厄介なところだ。私たちのアイデアにかなりの抗力を及ぼすものなのに、よく見落とされる。

次の思考実験をやってみよう。「あなたは入院中の子供たちを社会的に支援する非営利団体(NPO)を運営している。あなたのNPOでは人々に対して、入院している子供たちを応援する手紙、『ヒーローカード』を送ってもらうよう働きかけを行っている。現在は、ボランティアを依頼された人の18%がヒーローカードを書いてくれている。カードを書いてくれる人の数を増やしたいのだが、あなたならどうするだろうか?」

あるグループにこの質問を投げかけたところ、繰り返し出てきたのは、「カードがどれほど子供たちのためになっているかを説明する」、「ヒーローカードを書いてくれた人に謝礼を支払う」、という2つの案だった。そこで私たちは、影響力を持つと思われたこれら2つの案に私たちの独自案を加えてテストをしてみた。

ある集団には、カードがどれほど大切であるかを語る子供たちの言葉を伝えた。別の集団には、1枚カードを書いてもらうたびに少額の謝礼を渡した。そして最後の集団には、ヒーローカードを書きやすくするために、ヒントとして使えるひな形をいくつか提供した。

「変化を嫌う人」を動かす: 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由
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最初の2つの刺激策からは目に見える変化が得られなかった(これらの心理的な後押しは、むしろ逆効果になった)。だが、ひな形を提供すると、求めに応じてくれる人の割合は60%上昇した。つまり、誰も思いつかなかった手法こそが、刺激策として最も効果的だったのである。

ひな形を提供する方法が効果的だったのはなぜだろう。病気の子供たちを支援することが重要だと誰も思っていないのだろうか。もちろんそうではない。そんなことをしても意味がないと思ったから書きたがらなかったわけではないのだ。何を書いたらいいかが分からなかったから書きしぶったのだ。

彼らは次のような疑問を解決できずにいた。

「何を書いたらよいのだろう? どのような言葉を使うべきなのだろう? 楽しいメッセージにするべきなのか、それとも思いやりのこもったメッセージにするべきなのだろうか?」

この不明瞭さが「抵抗」となったため、変化を起こす「燃料」を増やすという最初の2つの刺激策に効果がなかったのである。だが、ひな形を提供することで「抵抗」が取り除かれ、人々は行動を変えたのだ。

ロレン・ノードグレン ケロッグ経営大学院経営学教授

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Loran Nordgren

ケロッグ経営大学院の経営学教授。新しいアイデアの採用を促す作用や妨げる作用を持つさまざまな心理的力について探求する研究や教育に携わる。研究者として、また教育者として数々の賞を獲得。世界中の企業とともにさまざまな行動変革の課題に取り組んできた。そのプロセスをロレンは「行動デザイン」と呼んでいる。

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デイヴィッド・ションタル ケロッグ経営大学院教授

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David Schonthal

イノベーション&アントレプレナーシップを担当するノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授。数々の賞を獲得。学外では、デザイン、イノベーション・コンサルティング、ベンチャー・キャピタルの分野で活動。これまでに世界各地で生み出した新製品と立ち上げた新サービスは200を超える。

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