魅力的でも買われない商品を変える必要な視点 変化を嫌う人を動かすには「抵抗」を解消する
魅力の増大ばかりに注力する人々
人々に新しいアイデアを受け入れてもらうにはどうすればよいだろうか。マーケティング担当者、イノベーター、経営者、活動家など、変化を生み出すことを仕事にしている人の多くは、思い込みのもとに行動している。その思い込みとは「魅力の法則」と呼ばれるもので、人々を説得して新しいアイデアを受け入れてもらうには、アイデアそのものの魅力を高めるのがいちばんの(そしておそらく唯一の)方法だという信念である。
付加価値が十分であれば人々は賛同してくれると私たちは反射的に思う。そのため、アイデアに機能やメリットを付加したり、メッセージの訴求力を高めたりする方策を取ることになる。
それは、一方で自分たちが生み出そうとしている変化に逆らう「抵抗」──をなおざりにしていることになる。「抵抗」とは、変化に対抗する心理的な力だ。「抵抗」はイノベーションの妨げになる。変化を起こすにはこの「抵抗」を克服することが不可欠だ。
魅力がなければアイデアは生き延びられない。だが、それだけでは不十分だ。変化を起こすには、変化に逆行する力をまず理解する必要がある。目には見えないかもしれないが、「抵抗」はそこに存在し、イノベーションに向けた努力をくじいてしまうことになる。
ある日、私たちのもとに、とある会社から助けを求める電話がかかってきた。その会社は、家具の販売方法の定義を変えつつある急成長中のスタートアップ企業だ。この会社が顧客に提供する価値は独特で、世界に1つだけのフルカスタマイズの家具(主にソファ)を、他のオーダーメイド家具会社よりも75%ほど安く作ることができる。
初めて「大人」の家具を購入しようとする都会暮らしの若いミレニアル世代にとって、その魅力は相当なものだ。多くの買い物客がウェブサイトで何時間もかけて、あるいは店頭でデザイン担当者と相談しながら、自分にぴったりのソファを作ることを楽しんでいる。ところが、購入を希望しているはずの買い物客が「注文」ボタンを押す直前に不思議なことが起こる。買い物客は何もしないのだ。購入手続きを完了せずに姿を消してしまうのである。
なぜ買い物客の多くは何時間もかけて作った家具を購入しないのだろうか? その会社は理由を知りたいと思った。価格や納期に不満があるとか、購入する前にもう少し他の店も見てみたい、といった理由が考えられる。もっともらしい説明ではあるが、これらは本当の理由ではなかった。