日本人に「当事者意識が欠けている」風潮の処方箋 子どもたちが主体性を取り戻す為の3つの声かけ

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まず3年間、入学から卒業まで「勉強しなさい」という声かけを一切しないことにしました。

たとえ授業中に小説やマンガを読んでいる生徒がいても、「君には勉強しない自由がある。でも、勉強したい人の邪魔をする自由はないよ」という最低限のルールを伝えながら、生徒の主体性を尊重する環境をつくっていきました。

しかし、こうした働きかけだけでは、主体性を失った子どもたちのリハビリはなかなか進みませんでした。そこで僕たちが考え出したのが、「生徒自身の自己決定をうながす言葉がけ」です。

小学生 学習
子どもたちへかけた言葉とは?(写真:kouta/PIXTA)

僕たちは次の「3つの言葉がけ」を、あらゆる場面で根気強く行っていきました。

① どうしたの?

② これからどうしたい?

③ なにか手伝えることはある?

たとえば、授業中に騒いで授業の邪魔をする生徒がいたら、「どうしたの?」「なにか困っているの?」と、現状を把握するための問いかけをします。

「君はこれからどうしたい?」に面くらう

小学校時代、同じように授業中に騒いで頭ごなしに叱られていた生徒たちは、まず「どうしたの?」と理由を聞かれたことに驚きます。

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「怒るんじゃなく、理由を聞くの?」と。

そして、生徒は「君はこれからどうしたい?」と問いかけられます。

親や先生からはこのような問いかけをされたことがまずないので、ほとんどの生徒は面くらいます。

とはいえ、そこでなかなか答えが出てくるものではありません。せいぜい「別に……」とぶっきらぼうに答えるのが精一杯です。

そんなときは、助け船となる選択肢を示してあげるようにしています。

「そうだなあ。別室を用意してあげることくらいはできるけど」

「だから、君はどちらかを選べるよ。いまから残りの時間を我慢して授業を聞くこともできるし、僕の用意した別室ですごすこともできるけど、どうする?」

などと声をかけます。

すると「じゃあ別室に行かせてください」などと言うので、そこでさらに「別室に行くのは1時間でいいかい?」と投げかけ、また生徒に考えさせ、自己決定をうながすのです。

はじめはこんな小さな自己決定ですが、不思議なもので、小さな自己決定を繰り返していると、人は必ず元気になっていくのです。

・どうしたの?
・これからどうしたい?
・なにか手伝えることはある?

この3つの言葉がけは、人が元気を取り戻すための「魔法の言葉がけ」です。悩んでいる友達や兄弟姉妹がいたら、こんなふうに声をかけてあげるといいと思います。

工藤 勇一 横浜創英中学・高等学校校長

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くどう ゆういち / Yuichi Kudo

横浜創英中学・高等学校校長。1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長として宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。2020年より現職。教育再生実行会議委員、内閣府 規制改革推進会議専門委員、経済産業省 産業構造審議会臨時委員など、公職を歴任。著書多数。

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