日本電産、業績急悪化に潜んだ巨額買収のツケ ヨーロッパ買収企業が顧客とトラブル、損失に

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資料とは、日本電産の子会社であるドイツの自動車部品メーカーGPM社が起こした顧客とのトラブルについてのものだ。顧客はイギリスの自動車メーカーのジャガー・ランドローバー(以下、ジャガー社)である。GPM社が生産したウォーターポンプの不具合によって出た損害に対して、2021年10月にジャガー社から賠償を求められたという。

GPM社はエンジンの冷却水を循環させるための部品であるウォーターポンプのメーカーとしてヨーロッパでもトップクラスのシェアをもち、日本電産が2015年2月に買収した。ジャガー社との間でトラブルとなったポンプは2016年6月に生産を開始、2019年3月になって最初の市場不具合が報告された。

不具合の内容は、流量をコントロールする機能がうまく作動しないために冷却水の水温が上昇し、それが原因でラジエーターのファンが騒音を出すというものだ。GPM社では対策に苦慮し、翌年にソフトウェアを変更する改善策を取ったが、部品交換代やソフトウェアの変更コストとしてジャガー社から31億円余りを請求されるに至った。

「コスト感性をもっと磨け!」

日本電産の稟議書
入手した稟議書には永守氏による手書きのメモが記されている(編集部撮影)

入手した資料の中には、ジャガー社からの求償に対し25億3300万円を上限に和解調停することに、取締役会の了解を求める稟議書も含まれている。決裁の日付は2022年6月22日。会長である永守氏の大きな決裁印が押され、「AMEC(=車載事業本部)のデタラメな先おくり対応が大問題である」、「天からお金はふってこない」と手書きで書き込まれた永守氏によるメモや「コスト感性をもっと磨け!」との赤字のスタンプが押され、永守氏が巨額の和解金を支払うことに強い不満を持っていたことがうかがえる。

なお、この決裁の後、直ちに和解に至ったが、この経緯を日本電産は詳しく説明していない。それはなぜか。こうしたトラブルを説明することによって過去の買収が失敗だったと批判される可能性があるからではないか。

日本電産がM&Aを繰り返すことで事業規模を大きくしてきたことはよく知られている。その数は2021年9月までで67社に上る。メディアでは「M&Aの名手」などと喧伝され、永守氏自身も日経BP社から出版した『永守流 経営とお金の原則』で、〈これまでのM&Aの成果を勝ち負けでいうなら「67勝0敗」である。つまりすべて成功、失敗はゼロだ〉と自画自賛するが、日本電産の元幹部は「M&Aで100%成功はウソ。少なくともドイツでの買収は完全に失敗している」と言い切る。

社内でも「ババを引いた」と言われるのが、このGPM社である。買収前からその技術力を不安視する声もあったが、永守氏自身は自信満々に買収を進めたのである。数百億円もの巨費を投じたGPM社の買収について2014年12月12日付日本経済新聞でこう述べていた。

「GPMは75年の歴史があり、多くの人が商品イメージを持ち、技術力を高く評価している。環境規制で最低でも世界の車の半分はアイドリングストップが搭載されるようになり、売り上げ、利益の成長が短期で期待できる」

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