最北の廃線「天北線」、代替バスすら消える現実 かつて長大路線、音威子府―浜頓別間をたどる

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中頓別町との町村境である天北峠まではわずか12kmほど。ここは上川総合振興局と宗谷総合振興局との境でもある。県境と同じで生活圏はJR宗谷本線沿線と天北宗谷岬線沿線は分かれており、もともと地域住民の往来はごく限られる。

近年になり天北宗谷岬線は極端な利用客減が続いていたため、沿線自治体(音威子府村、中頓別町、浜頓別町、猿払村、稚内市)と宗谷バスとの間で協議会が結成され、交通体系を見直す動きが伝えられた。

2015年にはいったん、音威子府―中頓別間は天北線代替バスを廃止し、音威子府駅で宗谷本線の特急と接続する乗合タクシーを猿払村の鬼志別との間に設定する方向で合意が形成された。ただ、音威子府村は「村民の利用客がいない」との理由で、協議会を脱退している。

この計画は運行経費面からいったん保留となった。けれども浜頓別―稚内間は宗谷バスの路線バスを維持するが、音威子府―浜頓別間は1日2往復のデマンド交通に置き換えて、都市間バスは残るものの天北宗谷岬線のバスは廃止。中頓別―浜頓別間には、一般客の混乗も可能な高校生の通学輸送手段を1.5往復確保する方針が再度、2022年2月10日に決定したのである。

ようやく集落が現れると小頓別。旧駅前のロータリーが残り、特定地方交通線の転換交付金で建設されたバスの待合室が設けられている。近くには「丹波屋」との看板を掲げた過疎地には珍しい洋風建築がある。登録有形文化財に指定された元旅館で、かつてのにぎわいの名残となっている。1971年に廃止された歌登町営軌道の分岐駅でもあり、今も「えさし号」はここで国道と分かれて歌登、枝幸へと向かう。

中頓別町の主産業は酪農で、国道沿いには広大な牧場がいくつもある。中頓別農業高校前と名称を掲げたバス待合室があったが、案内放送は天北厚生園前。2008年に閉校となっており、深刻な少子化、過疎化が察せられる。いくつかのバス待合室は利用された形跡がなく、荒れている。

町外れの旧駅跡がバスターミナル

初めて市街地らしい市街地に入ると、役場もある中頓別。中頓別町の人口は約1600人で、大半がここに集まる。旧駅跡がバスターミナルで12時13分着、12時23分発と10分間停車。全線乗り通すと4時間30分あまりかかるので、トイレ休憩を兼ねた停車だが、冬季の悪天候時の遅れも加味した時間調整用とも思われる。

中頓別ターミナルには立派な建物があるが、場所は町の外れだ。もちろん町中にもバス停があり、果たしてこの場所が便利と言えるのか考えさせられる。天北線も走ったディーゼルカーが保存され鉄道への思いはわかるが、維持費用を考えると路線バス見直しの後、ここも見直す動きも出てくるかもしれない。現状は、音威子府と同じく係員のいる窓口も維持されている。

中頓別からは朝の鬼志別ターミナル行き1本、夕方の稚内駅前ターミナル発2本が加わり、天北宗谷岬線も3.5往復に増える。市街地を出ると再び酪農地帯。頓別川に沿ってオホーツク海を目指す。

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