地方移住で支援金「大盤振る舞い」のお寒い実態 都心回帰が鮮明、3年間の移住支援は結果伴わず

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北海道のある町は、移住者向けの住宅地として町有地を無料提供する一方で、太陽光発電事業者から得られた固定資産税を子育て支援の財源に回し、18歳までの医療費無料化、保育料・給食費無料化、小中一貫教育体制の構築などを実現した。

こうした「子育て支援」をアピールして移住者が増えている。町長は「人口は増やさなくても今の水準程度でいい、住民が幸せになるまちづくりを進めていきたい」とビジョンを語っていた。明確なビジョンと具体的な施策がかみあっていないと移住政策は結実しないということだ。

地方移住が関心テーマになって久しい。いまでは全国津々浦々の自治体のホームページに移住支援策が掲載され、「大自然のなかで生活を満喫しています」といった移住者の声があふれかえっている。メディアの報道も似たようなものだ。今年に入ってからも「高齢者の町に都会からの若者が増えている」といった記事がいくつか見られた。

だが、そんなうわべの情報では本当のところはわからない。ネット上には、実際には移住先になじめず、都会に舞い戻ったケースなど失敗例が生々しく紹介されている。どれだけ自然環境に恵まれていても、冬場は毎日雪下ろしという状況では、都会暮らしに慣れた家族はとても住み続けることはできないだろう。コロナ禍では人間関係の難しさも浮き彫りにされた。

移住は昨日今日始まった話ではない。政府や各自治体はこれまでのデータを蓄積しているはずだ。うわべの情報を流すだけでなく、たとえば過去の移住者の5年後、10年後の定着率を算定し、公表してみてはどうか。移住希望者にとっては欠かせない情報だ。定着率の低い自治体にとってはその原因を検証し、対策を考えるきっかけになる。金銭支援やデジタルインフラ整備を目玉にするだけでは、状況の改善は期待できそうもない。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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