認知症の両親が活力を取り戻した“推し活"の力 「Be supporters!」に学ぶニッポンの幸福の形
グラットン:見学した際に、ある入所者の方から、彼女の孫たちがサッカーチームについてたくさん教えてくれることや、孫たちとの会話がいかに自分をワクワクさせてくれるかというお話を聞きました。
施設職員、入居者、家族の皆をつなげる循環があると感じましたが、そのコンセプトはどのように決まっていったのですか。
沖中:人生100年時代になれば、病気と無縁ではいられなくなります。今後は、予防だけでなく、病気になった人も含めて、いかに幸福感を持って生きていけるかが大事になる。それに応えるのが企業の社会的責任となるでしょう。
そこで、健康寿命ではなく「幸福寿命」という考え方を取り入れ、予防から共生という領域まで、活動を広げたいと考えました。
高齢者施設の中で、職員に支えられている側の方が、支える側にも変わっていく。そんなアクションを生み出すというのが活動のコンセプトです。
グラットン:人とのつながりは、幸福の根底にあるものです。しかし、歳をとるとつながりや関係性が狭まってしまいます。
活動を拝見して、みなさんがそれぞれの関係性を作ろうと一生懸命になっているところや、自分たちで自分たちを支えるという活動を自主的になさっているところが素晴らしい。
自分の応援するチームは明日勝つだろうか、選手は怪我をしないだろうか、といったように、翌日にいろいろな楽しみがあることで、幸せが生まれるのだと思います。
誰もが社会的開拓者になるスイッチを持つ
グラットン:私たちが書いた『ライフ・シフト2』では、「社会的開拓者」という言葉を使っています。
テクノロジーの進化と長寿化の進展は、「人間とは何か」という問いに大きな影響を及ぼすと考えています。
過去の世代が選んでいた古い選択肢は、おそらくこれからは有効ではないでしょう。人生の枠組みとして有用だった社会の仕組みも、役に立たなくなる可能性が高い。
私たちは、いわば未知の環境に身を置くことになるので、個人も、企業も、政府も、新しい実験に取り組み、新しい社会のあり方を切り拓く覚悟を持つ必要があるのです。社会的開拓者について、どうお考えでしょうか。
沖中:社会的開拓者という言葉を、ユニークなアントレプレナーのような人たちだけのものと定義づけるのは、間違っていると思います。
誰もがそうした要素を持っていて、きっかけさえあれば発露するのではないかと思うのです。
例えば高齢者施設に入居している方が、推しのクラブチームを応援する際にユニフォームを着る。すると、着た瞬間にスイッチが入って、精力的に応援し始める。お祭りのハッピを着たような感覚になるようです。
そうした姿を見ていると、本来、すべての人が、社会的開拓者になる要素を持っていて、「Be supporters!」がそのスイッチを入れるきっかけになったのだと教えていただいているような気がします。