静岡リニア問題、深刻化する県政の「機能不全」 県専門部会議論や副知事発言を川勝知事が否定

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読売新聞記者から「森副知事が誤解しているのか」と問われると、川勝知事は「(森副知事は)誤解していない。田代ダム取水抑制は別個の事柄であるが、南アルプス工事とは関係なしに議論できる。全量戻しとは、掘削中に出る水はすべて戻すということだ」などと頓珍漢な答えをした。

さらに、「JR東海は水利権を持っていない。ちゃんと水利権を持って、かつそれを調整してきた関係者(東京電力、静岡県、流域市町、利水者など)で議論しようということだ」などと田代ダム取水抑制案が水利権とは無関係とする政府見解をまったく承知していなかった。

読売記者が何度、疑問を唱えても、川勝知事は「田代ダム取水抑制案はまったく別の話だ」などと森副知事ら県当局の見解を“ちゃぶ台返し”してしまった。

これに対して、「森副知事は、全量戻しの1つとして有効だという発言を撤回すべきか」という質問に、川勝知事は「質問通りの言葉を彼(森副知事)が言っているのならば、私自身は、あなたから(初めて)聞いたわけですから」と驚くべき発言をして、県組織が“機能不全”に陥っていることまで明らかにした。

12月4日の県専門部会から約2週間もあり、森副知事から会議についての説明を受けていないとは誰も信じていない。川勝知事が“反リニア”に凝り固まって、周囲の説明が耳に入ってこないだけなのだろう。

共同通信記者が「田代ダム案が全量戻しの解決方法にならないならば、もう県専門部会で議論するのをやめたほうがいいのでは」と質問すると、川勝知事は「水資源にかかわる問題だから、水資源専門部会でやるべき問題。提案から8カ月もたっている、それにも関わらず(JR東海からちゃんとした説明が)出てこない。われわれはきちんとした説明をしてくださいと言っている」などと県専門部会での議論をまったく承知していないことを明らかにした。共同記者は「どう考えても周りには、この県の組織のあり方を疑わせるし、不誠実でずるいなと思わせる」と厳しい意見を川勝知事に投げ突けた。

このほか、テレビ静岡記者「リニア問題を流域の首長は川勝知事に一任していたが、現在では意見が異なり、流域の声を代弁していないのでは」、NHK記者「県専門部会で他県の用地取得率や課題を求めていくことがリニア静岡問題とどのようにつながるのか」などの厳しい質問が出た。これらの質問に対して、川勝知事は流域首長の意見や県専門部会の議論とはかけ離れた回答を繰り返して、ごまかした。

静岡県に山梨県内の工事を止める権利はない

現在、山梨県内の工事が行われているが、その工事によって静岡県内の水が山梨県側に引っ張られるから工事をストップして、静岡県内の水を1滴も流出させないようJR東海に求めるという非科学的な議論を県専門部会で行っている。

高速長尺先進ボーリングで静岡県内の水が失われるとして、山梨県内の工事ストップを議論する県地質構造・水資源専門部会(静岡県庁、筆者撮影)

県専門部会の森下祐一部会長らは、川勝知事に沿った意見に終始している。いくら研究者の意見を参考にするとしても、静岡県が他県の工事を簡単に止める権限などない。

静岡県内の「水1滴」の値がいくらかは知らないが、JR東海に山梨県内の工事ストップを求めるならば、それに見合った十分な説明と補償をするのが行政の責任である。

このまま不毛な議論を続ければ、静岡県は行政としての責任と機能を完全に失ってしまうだろう。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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