静岡リニア問題、深刻化する県政の「機能不全」 県専門部会議論や副知事発言を川勝知事が否定

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このため、JR東海は2022年4月の県専門部会で、工事後に山梨県内のトンネル湧水をポンプアップして静岡県に戻す方策を示すとともに、東京電力の田代ダムから山梨県へ流出している河川水をJR東海の工事期間中、東京電力が県外流出量と同じ量の取水抑制を行い、大井川に放流する2つの案を示した。

田代ダム取水抑制案は、島田市をはじめ流域の市町長から歓迎の声が聞かれ、山梨県知事だけでなく、田代川第一、第二発電所を有して、東京電力から電源立地交付金を受ける早川町長も有効な対策と高く評価した。

ところが、川勝知事は当初から「JR東海が関係のない水利権に首を突っ込んでいるのは、アホなこと、乱暴なこと」などと反発、8月に行われた田代ダムの視察後にも、「田代ダム取水抑制案はJR東海の地域貢献である」と述べて、県外流出の課題解決ではないことを強調した。

その後の会見でも、川勝知事は何度も田代ダム取水抑制案は全量戻し策ではないと否定した。

食い違う知事と副知事の発言

12月4日の県専門部会で、JR東海と国交省担当者が、田代ダム取水抑制案について、東京電力が自主的かつ一時的に取水を抑制するのであり、たとえ金銭の授受があったとしても水利権を規定する河川法上の問題はないとする政府見解を説明、さらに、東京電力の河川流量実測値から県外流出量と同量を大井川に放流できることまで明らかにした。

委員からは「渇水期に戻せるのか詳細な記録を示せ」などとする重箱の隅をつつくような意見が出された。

このため、会議終了後の囲み取材で、筆者は森副知事に対して、「今回の議論で、田代ダム取水抑制案が全量戻しに有効であることが確認された。ところが、知事は何度も田代ダム取水抑制案は全量戻し策にならないと発言している。それどころか、県外へ流出した水を同じ地点に戻せという実現不可能な主張を繰り返している。知事が田代ダム取水抑制案を認めないならば、県専門部会の議論そのものがムダになる。リニア問題を議論する県の責任者としての見解を示してほしい」と質問した。

川勝知事が田代ダム取水抑制案は有効だと了解している、と話す森副知事(写真中央、静岡県庁、筆者撮影)

森副知事は「田代ダム取水抑制案は県外流出湧水の全量戻し策として有効だと知事も了解している」などと述べた。

ところが、12月16日の定例会見で、川勝知事は「JR東海が、取水抑制する田代ダムの水利権を持っているわけではない。JR東海はまったくの部外者であり、了解すべき権利も立場もないにもかかわらず、あたかも連動しているかのごとく言っている。南アルプストンネル工事と田代ダム取水抑制案は別の事柄、南アルプス工事と結びつくものではない」などと従来通りの主張を繰り返し、田代ダム取水抑制案を真っ向から否定した。

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