カーブ路線高速化の立役者「振り子車両」名車列伝 381系から海外まで、車体を傾けて走る列車たち

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筆者が印象深い振り子式車両といえば、1993年12月に特急「スーパーあずさ」としてデビューしたE351系が挙げられる。中央本線と並行する中央高速バスに対抗すべくカーブ区間でのスピードアップを図るため、JR東日本では初となる制御付き自然振り子式を採用した。最高時速は130km(設計最高時速160km)を誇り、最速列車は新宿―松本間を2時間25分で結んだ。カーブと勾配が多い山岳地帯を表定速度90km超で走ったのは、まさに振り子式車両の性能を発揮した例として特筆されよう。

E351系スーパーあずさ
車体を大きく傾けて八ヶ岳山麓を疾走するE351系「スーパーあずさ」(撮影:南正時)

筆者は正面寄りでカメラを構え、車体を傾斜させた際に車両限界を超えないようデザインされた卵形のボディが大きく傾いてやってくる姿に魅力を感じていた。2018年3月のダイヤ改正で空気ばね車体傾斜式の後継車、E353系にすべて置き換えられ、残念ながら全車廃車された。

電車より速い振り子式気動車特急

1994年には、JR北海道にも振り子式特急列車がデビューした。「スーパー北斗」として運転を開始したキハ281系だ。それまでキハ183系で運用されていた「北斗」と比べて函館―札幌間の所要時間を30分ほど短縮し、最短で3時間を切ったこともあった。表定速度も最高で106.8kmを記録している。これは気動車特急でありながら電車の在来線特急をもしのぐ速さだ。

キハ281系「スーパー北斗」
礼文華を駆け抜ける「スーパー北斗」キハ281系(撮影:南正時)

北海道の線路曲線は本州の振り子車両走行路線ほどではないが、それでも室蘭―長万部間の「噴火湾」沿いの礼文華といわれる海岸線には連続して急カーブが存在し、ここで振り子式の性能を遺憾なく発揮した。その後、さらに進化したキハ283系、空気ばね式車体傾斜のキハ261系も登場した。だが、一時期続いたトラブルで北海道の特急列車はスピードダウンを余儀なくされ、キハ261系は車体傾斜装置の使用を取りやめた。キハ281系は2022年9月30日に定期運行を終了した。

このほか、「しなの」381系の後継であるJR東海の383系電車や、JR西日本の283系「オーシャンアロー」、JR九州の883系「ソニック」、885系「白いかもめ」、そして第三セクターの智頭急行HOT7000系「スーパーはくと」など数々の振り子式車両がデビューしたが、近年は空気ばね式の導入が目立つ。その中で、381系「やくも」の置き換え用車両は「振り子式」と明言されており、どんな車両になるか注目だ。

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