池上彰解説、トランプ前大統領「復活」への危機感 2024年の大統領選挙に向けて、今も注目の的だ

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民主党善戦の理由のひとつ「人工妊娠中絶禁止への危機感」とは、どういうことか。日本にいると、なかなか実感できないのですが、アメリカでは人工妊娠中絶の是非が大きな争点なのです。

共和党を支持するキリスト教原理主義者(福音派)は、「妊娠中絶は殺人だ」と主張し、妊娠中絶を認めないように働きかけを続けてきました。しかし、アメリカ連邦最高裁判所は、1973年、「やむをえない人工妊娠中絶は憲法で保障された人権である」という判決を下し、中絶が合法化されていました。

ところがトランプ前大統領が、最高裁判所に保守派の判事を送り込んだことで、最高裁は判断を変更。2022年6月、最高裁は「妊娠中絶は憲法が保障する人権ではない。認めるかどうかは各州の州議会が決めることだ」という判決を出したのです。

これを待っていた共和党は、各地の州議会で中絶を実質禁止する法律を次々に成立させました。

これに反発した女性たちが、「選挙で中絶を容認する議員を選出しなければ」と考え、今回の選挙で、連邦議会でも州議会でも民主党に投票しました。結果、民主党は惨敗を免れたのです。

中絶禁止に反発するのは民主党支持者に限りません。そもそも自分の身体について政治家にとやかく言われたくないと反発する人たちは、共和党支持者にも無党派層にもいるからです。

2年後にトランプでは勝てない!?

2つ目の「危機感」は「トランプ前大統領復活」への危機意識です。

中間選挙でトランプ前大統領は、共和党の候補者を応援して回りました。

「応援」と書きましたが、実際は候補者をほめたたえるよりは、自分がいかに偉大な大統領だったかと自画自賛しました。2年後に大統領選挙に立候補する野心をむき出しにしたのです。

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これが、中間選挙に関心のなかった人たちを刺激しました。「このままでは2年後にトランプ大統領が誕生しかねない」という危機感です。

トランプ前大統領に関しては、熱烈な支持者が大勢いますが、その一方で、強烈なアンチ・トランプの人たちも多いのです。この人たちの危機意識を駆り立ててしまったのが、トランプ前大統領でした。いわばオウンゴールをしてしまったのです。

中間選挙が終わったいま、共和党員の中では、「2年後にトランプでは勝てない」という意識が広がっています。

今回の中間選挙は、「トランプ落日の始まり」かもしれません。今後、共和党内でのトランプ派と反トランプ派の対立が激化するでしょう。

結局、トランプ前大統領は、いまも注目の的なのです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶応義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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