池上彰解説、トランプ前大統領「復活」への危機感 2024年の大統領選挙に向けて、今も注目の的だ

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中間選挙とは、よく「政権に対する中間評価」と呼ばれます。今回の場合でいえば、「2年前に誕生した民主党のジョー・バイデン政権に対する通信簿」のようなものです。

4年に一度の大統領選挙は、大きく盛り上がりますが、その合間に実施される中間選挙は、大統領選挙に比べると盛り上がりに欠けます。2年目の選挙で誕生した政権を支持する人たちは、あまり投票に行かず、現政権に不満を持つ人たちが野党に投票することが多いので、与党が敗北するのが通例でした。

今回も、事前のメディアの予測では、バイデン大統領の支持率が低迷していることや物価高が進んでいることから民主党が連邦議会で議席を大きく減らすだろうと言われていました。これは「レッド・ウェーブ」(赤い大波)と称されました。共和党のシンボルカラーが赤だからです。

しかし、実際には大きな波にはならず、「さざ波」程度でした。上院で共和党は議席を増やすことができず、下院ではかろうじて過半数を占めましたが、それほど増えたわけではないからです。

結果、今回は「民主党が善戦」と評価されたのです。その理由は2つの危機感です。「人工妊娠中絶禁止への危機感」と「ドナルド・トランプ前大統領復活への危機感」です。

ラーメン・餃子で5040円!?

10月にアメリカに入って驚いたのは物価高の現状でした。マンハッタンの人気のラーメン店で豚骨ラーメンと餃子を食べたのですが、ラーメンは16ドル、餃子(アメリカでは鉄鍋ポークギョウザと言う)は12ドルでした。計28ドル。当時、1ドルは150円でしたから、日本円に直すと4200円です。

さらにチップが上乗せされます。コロナ禍の前は飲食店での標準的なチップの額は10%から15%程度だったのですが、いまはレシートにチップの額が3つ例示され、その中から選ぶようになっています。18%か20%か25%です。物価高で従業員の給料も上がり、チップの額も上がったというわけです。

仕方ないですね。私は20%を選びました。合計すると、なんと5040円になるではありませんか。ラーメンと餃子だけで、この金額ですよ。もちろん円安のせいもあるのですが、アメリカの物価高を実感しました。

これではバイデン政権への批判が出るのは当然と思ったのですが、それほど投票結果に影響が出たわけではありませんでした。物価はたしかに上がっているのですが、それに合わせて給料も上がっているからです。ニューヨークでは飲食店の従業員の時給が3000円では来てくれないというのです。4000円から5000円を出して、やっと働く人を確保できます。これなら物価高への不満もやわらぎます。

ただし、これは職種によって、あるいは地域によって異なりますが。

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