ストルテンベルグ氏らしい歯切れのよい発言は、会合後の記者会見で飛び出した。エネルギー価格の高騰など2022年の冬に欧州が直面する経済的困難に触れた同氏は「これは払うに値する代償だ」と述べて、さまざまな危機に直面しても欧州がウクライナへの支援を緩めてはならないとの原則的立場を強調したのだ。
「もしプーチンが勝利すれば、他の権威主義的指導者に対し、力の行使をしてもいいと奨励するようなものだ」と付け加えた。ノルウェーの首相経験者であるストルテンベルグ事務総長は侵攻開始以来、プーチン政権への対決姿勢を強めてきた。
この対決姿勢を象徴したのが、ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地方で占領地を拡大していた2022年6月末の発言だ。米欧の政治家や専門家から、劣勢に立ったウクライナに対して領土面で譲歩して和平を優先すべきとの妥協論が出始めた中、ストルテンベルグ氏はドイツ紙とのインタビューの中で「戦争が何年も続くことを覚悟すべきだ。ウクライナへの支援をやめてはならない」と支援継続を呼びかけた。米欧で浮上した早期妥協論にくぎを差した内容だ。
ノルウェー首相としての経験
2022年9月30日には、ウクライナ侵攻をめぐるストルテンベルグ氏の対ロ強硬論を象徴するフレーズが飛び出した。ロシアがウクライナ南部4州の併合を宣言したのを受け、「もしロシアが戦闘をやめれば、戦争は終わる。もしウクライナが戦闘をやめれば、ウクライナは独立国家としての存在をやめる」と指摘した。ロシアが攻撃をやめるのが、和平交渉の前提だとの原則を明確に打ち出した内容だ。
侵攻開始から10カ月が経過しようとする中、あらゆる局面で同氏が発する印象的で明確な言葉遣いには、盟主であるアメリカも含めNATO全体をリードしていこうという覚悟を筆者は感じていた。こうしたストルテンベルグ氏について、米欧の対ロ政策に精通する西側外交筋も「もはや西側の対ウクライナ政策に関する精神的指導者と言っていい」との評価をしている。
ストルテンベルグ氏はノルウェー首相だった2010年、ノルウェーとロシアとの間で対立があった国境線問題を交渉で解決した経緯がある。ロシアと国境を接する地域国家を率いた経験を踏まえ、プーチン政権による国際法違反の侵攻から、自国と同じ境遇にあるウクライナをNATOが守るべきとの強い信念があるとみられている。
一方で、より広い、歴史的文脈から、侵攻を始めたプーチン政権への対決姿勢をみせているのがフォンデアライエン委員長だ。旧メルケル政権でドイツ初の女性国防大臣を務めた委員長は2022年9月下旬、ウクライナ入りして視察した際にこう発言した。「これは単なるロシアとウクライナとの紛争ではない。これは両国の根本的原則の間の紛争である」。
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