NATOとEUトップがプーチンに強く対抗する理由 両組織のトップが中欧諸国とつくり出す新安保秩序

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この「よい平和」発言以外にも臆測を招く言葉遣いがあった。マクロン氏が共同会見で「持続可能性のある平和(sustainable peace)」という言葉を連発したからだ。この「持続可能性のある平和」が何を意味するのか。詳細は不明だが、「よい平和」と併せて考えれば、ロシアの国益を考慮に入れた和平でなければ、平和は持続不可能だという考えと解釈できよう。

いずれにしても、マクロン氏が使ったこの2つの言葉は、アメリカ政府や先進7カ国(G7)が提唱した「公正な平和(a just peace)」とはニュアンスがだいぶ異なる。「公正な平和」の具体的内容としてアメリカ政府が掲げるウクライナ問題での4原則は、①交渉の時期や方法はウクライナが決める、②国連憲章に基づいた主権と領土の一体性回復、③力によるウクライナ併合を進める今のロシアを誠実な交渉相手とみなさない、④戦場でウクライナが優位に立てるよう軍事支援を行う、というものである。

バイデン氏「プーチンと話す用意がある」

つまり、「公正な平和」とは、侵略を受けた被害国であるウクライナの主張を全面的に反映した和平という色彩を帯びている。これに対し、マクロン氏の2つの言葉には、侵略したロシアの同意も欠かせないという意味に取れる。具体的には、和平達成後もウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟しないとの確約などが念頭にあるのではないか。ワシントンでマクロン氏は結局「公正な平和」には言及しなかった。

こうした微妙な両大統領のニュアンスをみると、表向きの対ロ政策をめぐるアメリカとフランスの共同歩調は、結局「同床異夢」に終わる可能性も否定できないと筆者はみる。

一方で、バイデン氏も共同記者会見で含みのある発言をして注目された。具体的な計画はないと前置きしつつも、プーチン氏が戦争を終わらせる意思があるなら「話す用意がある」と語ったのだ。この発言をめぐってはその後、アメリカ政府高官が対話の前提条件が整っていないとの考えを示して、対ロ政策の変更でないことを強調して火消しに走った。

アメリカでの報道をみると、この発言は下院で多数派を制した共和党を相手にした来年以降の議会運営をにらみ、アメリカ政府に対話の意思があることを強調する内向きの発言だったようだ。いずれにしても、2023年以降、バイデン政権は大規模な軍事支援を含め、対ウクライナ政策で議会からチェックを受けることを覚悟しているようだ。

そのような中、プーチン政権との安易な妥協を認めず、ブレない強硬路線で米欧全体をリードする2人のトップが存在感を高めている。NATOのストルテンベルグ事務総長と、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長だ。

2022年11月末にルーマニアのブカレストで開催されたNATO外相会合は、越冬支援などウクライナへの「持続可能な支援」を強調する声明を発表した。同時にウクライナがNATO加盟の候補国であることも明示的に盛り込んだ。

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