「在宅夫婦のランチ」夫は平気でも妻にはストレス 1時間以上前に「お昼、何?」に妻はうんざり

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妻である人にも、一言だけ言っておきたい。

男性脳は、「自分の思い」を即座に顕在意識に上げられないのである。だから、即座に食べたいものも思いつかない。「何食べたい?」に、多少うろうろしても、温かく見守ってほしい。

女性脳は、生まれつき右脳と左脳の通信線が男性脳より多く、日常、右左脳が頻繁に連携している。右脳は感じる領域、左脳は顕在意識と直結している。つまり、「感じたことが、即、意識に上がる」のが女性脳の、生来の特徴なのである。

このため、周囲への観察力も圧倒的に高く、生半可な嘘は、鋭く見抜く。ある女性は、「油の匂いが違う」と言って、夫の嘘を見抜いた。「同僚とその辺の中華でご飯を食べてきた」と言ったけど、彼についていた油の匂いは高級中華の匂いだった、あれは、大切な人としか行かない店の匂いだ、と彼女は言った。

女たちの「感じたことが、即、意識に上がる」機能は、自分の気持ちにも働く。自分の気持ちが即座に言える。たとえば、恋人に「僕のどこが好き?」と聞かれたら、「その声と、つむじ」みたいに即答できる。だからこそ、それができない男性に、「あまりにも、心がない」と感じるわけだけど、それは濡れ衣なのだ。

男性に「私のどこが好き?」と尋ねるのは、女性に「あなたの体重は?」と尋ねるのと一緒。ありえない質問で、どう答えたらいいかわからず、一瞬、絶句するしかない。

男たちが「私のどこが好き?」に即答できない理由

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男たちが、自分の気持ちを即座に出力できない理由は、男性脳が、何万年にもわたって、過酷な現場にいたからである。狩りに出て、あるいは戦いに出て、危険な目に遭っているときには、自分の気持ちに触れて逡巡している暇はない。好むと好まざるとにかかわらず、その道を行かなければならない。時には、痛みも遮断して、成果をあげなければならないときもあっただろう。

そんな男性脳が、とっさに自分の気持ちを顕在化できないように、神経回路をなかば遮断していても、おかしくないのでは?

わが家の夫は、「私のどこが好き?」にまともに答えてくれたことはないけど、そのたびに私は、男性脳の何万年の過酷な暮らしを思っている。私は基本的に、男性脳を敬愛してやまないのだ。息子の脳も、そして、6カ月の孫息子の脳も。果敢にハイハイして、何でも飛びついて、がんがん振り回すその好奇心と冒険心に、心からのエールを送り、そして大人の男並みに敬愛している。たとえそれで、床が水浸しになり、携帯のガラスカバーが欠けたとしても。

黒川 伊保子 人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家

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くろかわ いほこ / Ihoko Kurokawa

1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピューターを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『妻のトリセツ』(講談社+α新書)、『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル)、『夫婦脳』(新潮文庫)など多数。

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