老子が説く「人の下に立て」が成功への道になる訳 道徳論ではないリアリズムに基づいた処世術

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1)身を置くのは低いところがよい(居は地を善しとす)

すなわち、人の下に立て、という教えです。

これは「柔弱」戦略の根幹となるもので、他の六つのルールのベースとなるものです。つまり、高い地位につかず、名誉や富を求めず、競争にも参加しない。人々より一段低いところに身を置く姿勢を見せることで、周囲からのマイナス感情を避ける。

そして、仮に競争の中で成功したとしても、手柄を自分のものとせず身を退き、すぐに不争の世界に戻る。それが「居は地を善しとす」ということの意味です。

(2)心はうかがい知られないのがよい(心は淵を善しとす)

『老子』はあくまで物事を成し遂げるための教え、すなわち成功のための教えです。そして、当たり前ですが、成功しようとする人間の心には、成功しようとする意志やそのための策略があります。

しかし、それを悟られれば、必ず周囲からは足を引っ張ろうとする動き、マイナスの感情が出てくる。つまり、自然と周囲との摩擦が起き、気がつけば争いに巻き込まれてしまうわけです。だからこそ、『老子』謀略術では、そうした内心を悟られないことが大事だと説きます。

そのためにも、あくまで対外的には「人と争わず、下に立つ」姿勢を崩さないこと。これは、実際にそうであることも大事ですが、それ以上に周囲にそう思わせることが大事なのです。この「心は淵を善しとす」と同様の教えは、第三十六章において、同じ「淵」という言葉を使って説かれています。

魚は淵から離れてはならず、国の兵力も人に見せてはならない(魚は淵より脱すべからず、国の利器は以て人に示すべからず)(第三十六章)

魚が川の淵から出てしまえば見つかって捕まるように、国の兵力も他に悟られれば敗られる原因となる。『老子』は、一貫して他人に内実を悟らせないことに注意するよう勧めるのです。

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