「信賞必罰」など、会社員にも役立つ思想を説いた『韓非子』。本書は、覇権主義を取る現代中国の先行きを読む上で必携だ。
中国古代と現代の国際社会の共通点
中国古代、とくに春秋戦国時代と現代の国際社会には、実はよく似たところがある。限られた空間内にいくつもの政権がひしめき合い、境目争いや資源争奪、さらには殺し合いの連鎖が続いている。各国の政治家は一応戦争を避けようと必死で、互いに合従連衡を繰り返しながら、目の前の平和を維持しようとしている。
春秋戦国時代にはしばしば会盟なるものが開催され、大小の国々のトップが集まって平和協定を結び、盟主を選出しており、これも現在の国際連合とよく似ている。会盟の盟主は勤王(周王朝への忠誠)をかかげ、強力な軍隊を有し、同盟国軍とともに敵国を攻撃できる点で特異であるが、ほかの点は国連とそっくりである。
そして両者は、意外に脆弱であるという点でも、残念ながらよく似ている。戦国時代に戦争は激化してやがて統一帝国の秦が生まれた。現代でも、国連の努力を尻目にロシア・ウクライナ戦争が勃発している。私たちは平和的な共存共栄を再び取り戻せるのか。それともさらなる殺し合いの連鎖に陥るのか。これは世界が直面している難題の1つである。
「統一」と「共存」をめぐる問題
ここで指摘すべきは、複数の主権国家が並存・競合するという現状が、意外に長い歴史を持たず、今後続くとも限らないことである。さかのぼれば、16世紀ごろのヨーロッパでは、複数の主権国家が形式上対等となり、互いに外交と戦争の慣例を定め、条約を締結するようになった。
そして1648年にウェストファリア条約が締結され、その体制は決定的になった。一方、東アジアでは春秋戦国時代を経て、統一帝国の秦が生まれた。つまりヨーロッパと中国は元来ともに複数の国家の並存状態にあったが、前者はその継続を選び、後者は統一を選んだのである。
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