『大衆の反逆』は1930年代に欧州で記された本だが、ここで論じられる大衆像は今を生きる私たちに当てはまる点が多い。
・『大衆の反逆』とは?
オルテガ・イ・ガセットはスペインの哲学者であり、その主著である『大衆の反逆』は大衆批判の書として名高い。オルテガの言う「大衆」とは、政治的決定に必要な情報や教養を持たず、しばしば社会の多数者の声や大量の宣伝に振り回され、自分で判断するより固定的なイメージやレッテルによって人やものを見る人々であった。このような時代状況にあって、オルテガの大衆批判は最も手厳しいものの1つであった。それにとどまらず、オルテガの鋭い人間と文明の分析は、「何のために生きているのか」がわからなくなっているすべての現代人に深く突き刺さる内容を持っている。
自国の衰退に直面したオルテガ
『大衆の反逆』を読むうえでまず押さえるべきは、筆者のオルテガが生きた時代だ。19世紀の後半、スペインに生まれた彼は、ドイツに留学し、イギリスやフランスでも広く読者に恵まれた「ヨーロッパ人」であった。
にもかかわらず、ヨーロッパ列強は激しい植民地競争の結果、相互に分裂し、やがては2つの世界大戦の大破局へと向かっていった。
中でも、オルテガの祖国スペインは、1898年の米西戦争の敗北により、大航海時代以来の植民地をほぼすべて失っており、オルテガらは自国の衰退を強く意識せざるをえなかった。
さらにスペインは1930年代の後半から、共和国軍とフランコ将軍率いる反乱軍による内戦を経験することになる。オルテガはこのようなヨーロッパとスペインの混乱と破局を目前にして、自らの思考を紡いでいった。
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