フィンランドが「IT大国」になった予想外の理由 地理的理由から考えるIT産業発展のワケ

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2020年のフィンランドの最大輸出品目は「機械類」(24.2%)となっており、林業関連産業に加えIT産業も国家経済の一翼を担っています。「経済の裾野を広げた」という表現が相応しいでしょう。特にハイテク製品の輸出が伸びていて、「研究開発費の対GDP比」が2.91%と(IECD、2020年)高く、先端技術産業に力を入れていることがわかります。

ノキアの社歴を振り返っても分かるように、もともとフィンランドは早い段階でIT産業が興っています。グラハム・ベルが電話の実験に成功したのは1876年3月10日ですが、6年後の1882年には、フィンランドにて最初の電話会社が設立され、1922年にはヘルシンキに全自動電話交換局が開設されています。

かつての日本のように、電信・電話事業を国有化し、その後民営化するという流れがフィンランドにもあるかと思いきや、フィンランドは早い段階で国有化が国会で否決されたこともあり、国際競争力にさらされ地力をつけてきました。こうした背景から、フィンランド国民には新しい技術を積極的に取り入れる気質が見てとれます。日本車をヨーロッパで最初に輸入したのはフィンランドでした。

ソビエト崩壊がIT産業強化を後押しした

フィンランドにてIT産業が興ったもう1つの理由として、1991年12月のソビエト崩壊が大きく関わってきます。政治と経済は別物であり、歴史的にみると、ロシア(当時はソビエト連邦)とフィンランドの政治的関係はあまりいいものとはいえませんが、経済的な交流はありました。1980年代、フィンランドは地の利をいかして対ソ輸出が盛んでした。

しかし1991年のソビエト崩壊で輸出先を失ったフィンランド経済は大打撃を被ることとなります。輸出額は5分の1にまで減少し、フィンランドの失業率は20%に達しようかという勢いで上昇しました。

この危機的状況を改善したのが、IT産業の振興でした。「備えあれば憂いなし」という言葉があるように、ピンチになってから準備しても遅いわけで、「勝っているときこそ次の一手!」を考えておかねばなりません。

フィンランドは100年にも及ぶ通信産業の歴史をもち、その中で国際競争力を付けてきた実績があります。「チャンス到来!」とばかりに、林業関連産業一辺倒の産業構造からの脱却を図ったというわけです。

歴史、国民性、時流を見極める眼、さまざまな要素が絡み合って生まれたといえます。

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