ゼレンスキー氏「チャップリン必要」と訴えた意味 チャップリン作品が今も心に響く根本的な理由

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チャップリンは「笑いと涙とヒューマニズムの映画作家」であるとしばしば言われます。

しかし彼は、最初から「人種差別はいけない」などと頭でっかちに考えて「メッセージ映画」を作ったわけではありません。若手時代、舞台で修業をしていた頃にユダヤ地区でユダヤ人をネタにしてしまうなどの失敗を経験したり、映画界入りした後も『霊泉』のNGフィルムに見られるような試行錯誤を重ねたりして、世界中の人が心から笑えるユーモアだけを求めて苦闘しているあいだに、「差別では笑えない」ということに気づき、差別的な笑い、安易なギャグを慎重に取り除いていったのです。

世界で初めてバズったチャップリン

「今なぜチャップリンなのか」という問いに、もう1つの角度から迫ってみましょう。

チャップリンは映画史上初めて世界中でほぼ同時に大規模に映画を公開した最初の人物です。今で言う、「映画の世界同時公開」を初めてやった。

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つまり、彼は「動いている姿が世界中の人にほぼ同時に見られた歴史上最初の人」なのです。さらに、そのようにして世界的な人気を博した彼のキャラクターについて、裁判を通して法的な権利をも獲得しました。すなわち、スターのキャラクターの肖像権という知的財産権を最初に確立した人物でもあります。

彼はできたばかりの映像メディアを自分のものにして、最初の「普遍的なキャラクター」を生み出しました。いわば、「なぜ彼は優勝したのか」と問う以前に、そもそも彼がその競争の土俵を最初に作ったわけです。

世界中の人が同じ動画を共有し同じキャラクターを見て楽しむ状況は、現在ではYouTubeなどで日常のことになっています。チャップリンは、〈今〉という時代の本質を形作る映像メディアを最大限に使いこなし、そのイメージを世界中でバズらせて、キャラクターをビジネスにした最初の人物なのです。そして、彼の映画は今も世界にインパクトを与え続けています。

ここまで来ると、最初の問いに対しての、ビジョンが見えてくる気がします。「なぜ今、チャップリンなのか?」――それは、チャップリンこそ、私たちが〈今〉と呼んでいるこの時代をスタートさせた一人だからです。チャップリンを見ると、〈今〉の時代がよくわかり、〈今〉を生きる私たちの指針が得られるからです。

こんなふうに、チャップリンは、現代を取り巻く政治・経済・芸術・社会などさまざまなトピックについて、今を生きる私たちに必要な示唆を与えてくれるのです。チャップリンを知ることは、今の時代を知ることにほかなりません。

大野 裕之 脚本家、日本チャップリン協会会長

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おおのひろゆき / Hiroyuki Ohno

1974年大阪生まれ。脚本家・演出家・映画プロデューサー・日本チャップリン協会会長。京都大学総合人間学部卒、同大学院人間・環境学研究科博士課程所定単位取得。国内外のチャップリン関連企画やブルーレイ等を監修するな ど日本でのチャップリンの権利の代理店も務める。著書に『チャッ プリン作品とその生涯』、『チャップリンとヒトラーメ ディアとイメージの世界大戦』(第37回サントリー学芸賞)他多数。映画『太秦ライムライト』、『葬式の名人』『ミュジコフィリア』他でプロ デューサー・脚本を担当。2006年ポルデノーネ無声映画祭特別 メダル、14年京都市文化芸術産業観光表彰「きらめき賞」受賞。

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