激安服「シーイン」日本での普及への「一番の課題」 フォーエバー21の二の舞にはならないのか

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給与水準が上がらないのに、物価がじりじりと上がる中、より上の世代(具体的にはミレニアル世代)を狙える可能性もある。コロナ禍でリモートワークが定着しており、かつてほど「会社に着ていく服」は必要なくなっている。

また、円高によって海外ブランドはより手が届きにくくなっているだけでなく、日本発のブランド服の価格も上がっている。となれば、デザインや素材がそこまで「悪くなければ」ご近所着としてシーインを選ぶ人たちも出てくるだろう。

OLウケしそうなデザインのファッション小物も並んでいた(写真:筆者撮影)

「大量破棄」のモデルに変わりはない

一方で、シーインが日本に長く根付くには大きな課題がある。1つは、原宿の街から(再上陸するが)フォーエバー21やH&Mがなくなったように、品質の問題が改善されないなら日本では意外と早く飽きられる可能性がある点だ。ユニクロやジーユーの安い割には品質の高い服に慣れた消費者の審美眼は、世界でも高い水準にあるはずだからだ。

さらに同社のビジネスモデルが、本当に地球環境に負荷をかけないのかという懸念もある。在庫を残さないAIによる生産管理システムを作り上げたのは画期的で、従来の大量消費、大量廃棄の代名詞だったファストファッションとは違うのかもしれない。

だが、シーインの服のほとんどは、飽きたらすぐ捨てられるようなチープなものだ。2時流通で古着として循環する可能性も低い。シーインが企業として大量廃棄しなくても、大量消費した消費者が大量廃棄すれば、それは同じことではないのか。環境問題に敏感なZ世代がどこかのタイミングで一斉に踵を返すこともありえるのでは、と筆者は踏んでいる。

この2年の伸び率をみるかぎり、そう遠くない未来にシーインはLVMHグループの売上高(2021年度は642億1500万ユーロ)を超えることになるかもしれない。世界はますます貧富の差が拡大し、シーインがターゲットとする"貧"のマーケットはとてつもなく大きくなってきている。

ファストファッションが若者のファッションの入り口になる側面は否定できないが、安い服しか買えない世界中のZ世代に売れるだけ売って、経営陣だけがミリオネアになる……なんとも切なくわびしい話だと感じるのは筆者だけであろうか。

増田 海治郎 ファッションジャーナリスト

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ますだ かいじろう / Kaijiro Masuda

1972年埼玉県出身。神奈川大学卒業後、出版社、繊維業界紙などを経て、2013年にフリーランスのファッションジャーナリストとして独立。『GQ JAPAN』『MEN'S Precious』『LAST』『SWAG HOMMES』「毎日新聞」「FASHIONSNAP.COM」などに定期的に寄稿。年2回の海外メンズコレクション、東京コレクションの取材を欠かさず行っており、年間のファッションショーの取材本数は約250本。メンズとウィメンズの両方に精通しており、モード、クラシコ・イタリア、ストリート、アメカジ、古着までをカバーする守備範囲の広さは業界でも随一。仕事でもプライベートでも洋服に囲まれた毎日を送っている。著書に『『渋カジが、わたしを作った。』

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