「Amazonの目玉作品」が微妙な評価集めるワケ 永作博美、黒沢清が名連ねる「モダンラブ・東京」

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この黒沢作品も東京版の中では異色と言えば異色ですが、バリエーションがあるのはアメリカのオリジナル版に通じます。さらに、最後に並んだエピソード7「彼が奏でるふたりの調べ」においては黒木華と窪田正孝が声優を務めるアニメーション作品と、実写の括りを超えた試みです。「けいおん!」など人気シリーズを持つアニメーション監督の山田尚子が手掛けています。日本版としての特異性を示したかったのか、そんな企画の意図が透けても見えます。

日本オリジナルの制作費を増強

同じ主題歌から毎話始まり、気持ちが切り替えられていくスタイルについてはオリジナルと同様です。日本版は人気3人グループのAwesome City Clubが書き下ろした主題歌「Setting Sail ~ モダンラブ・東京 ~」から乗せていきます。

いちいちオリジナルと比較してしまうのは、リメイク作品の付き物なのかもしれません。オリジナルのファンがいればいるほど、厳しいコメントも集まります。実際に、Amazonカスタマーレビューにはオリジナルとの比較コメントが並んでいます。

オリジナルとの比較は、この作品において何か言いたくなる最たるものです。なかでも、後味の違いを指摘したコメントは的を射ています。

オリジナルは「シング・ストリート 未来へのうた」や「ONCE ダブリンの街角で」のジョン・カーニーがショーランナーを務め、突き抜けた表現で憂いの中に希望を見出すカーニーらしい作品が揃います。約30分の物語を見終わると、軽くスッキリ感を味わえます。一方、日本版は後味に湿っぽさが残りがちです。隅田川を下る川面の艶やかさや、何気ない原宿の路地など情緒的な映像シーンの良さは残しつつ、明快なストーリー構成で、もう少し力の抜けた印象を持たせても良かったのかもしれません。

Amazonはプライム・ビデオにおいて2022年以降、6作品の日本オリジナルを投入していくことを今年3月に発表した際に、制作費の増強も強調していました。さらに、制作部門にあるアマゾン・スタジオのアジア太平洋地域責任者エリカ・ノースは「日本の制作チームのクリエイティブ力は確かなもの。可能な限り高いクオリティのエンターテインメント作品を目指しています」と、日本の制作力に期待していることを裏付ける発言をしていました。

「モダンラブ・東京」はその代表作に位置づけられていたはず。にしては、微妙な評価で盛り上がりに欠けます。どうせならAmazon得意の賛否両論の嵐が吹くような振り切った方向性で話題を集めることができたのではないかと、余計にそう思います。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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