岐路に立つ「ジャニーズ」滝沢秀明氏退社の大影響 世代交代や新しい路線の開拓を積極的に進めた

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そしてその思いを具現するのは、まず舞台であった。

現在も続く『滝沢歌舞伎』は、その象徴だ。2006年初演の『滝沢演舞城』を発展させたもので、『滝沢歌舞伎』となってからは、滝沢秀明が主演だけでなく演出としても表に立つようになった。そこには毎年多くのジャニーズJr.も出演することで有名だ。滝沢が芸能界を引退してからは、当初はまだジャニーズJr.だったSnow Manがメインとなった。

この『滝沢歌舞伎』は、亡くなったジャニー喜多川の念願だったオリジナルミュージカルへの思いを引き継ぐものだ。ジャニー喜多川にとって、アメリカに負けないオリジナルミュージカルをつくることは事務所設立以来の大きな目標だった。

そのための方向性としてあったのが、欧米的なショーのなかに「和」の要素を融合させることである。『滝沢歌舞伎』は、そのひとつの答えであったと言える。

そこには、ジャニー喜多川が抱いていた海外志向も見て取れる。初代ジャニーズや少年隊が海外修行をした例もあったように、生前のジャニー喜多川の視線は、常に海外に向けられていた。2015年に実現した『滝沢歌舞伎』のシンガポール公演は、その一歩でもあった。

裏方になってからの滝沢秀明は、海外志向に関してもジャニー喜多川の意思を忠実に受け継いでいた。前述したTravis Japanの世界デビューも、初代ジャニーズがアメリカデビュー寸前までいったことを思い起こせば、滝沢がジャニー喜多川の長年の思いを代わって実現させたとみることができる。

ジャニーズの将来への影響は? 

ただTravis Japanの世界デビューは、過去の継承というだけではない。彼らのデビュー曲『JUST DANCE!』がジャニーズ初となる配信シングルであったように、そこにはインターネット時代におけるジャニーズの将来を模索するという狙いもあったはずだ。

インターネット時代への適応という点ではK-POPグループが一歩も二歩も先んじている感があるなかで、遅まきながらジャニーズも歩を進め始めたように見える。

今回の滝沢秀明の退社がそのあたりの進捗を遅らせるようであれば、決して影響は小さくないだろう。グローバル化時代への対応は待ったなしであるように思えるからだ。「ジャニーズアイランド」社長の後任には井ノ原快彦が就いたとのことだが、ジャニーズ事務所がいま1つの岐路に立っていることは間違いない。

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太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『平成テレビジョン・スタディーズ』(青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。

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