安倍首相、「シングルマザー特区」が必要です! 納税者も納得する新しい支援のかたちとは
悪意をもって人をだましている業者を相手にする中で、怖い思いもした。「山屋いるか!?」という電話が職場にかかってきたこともある。
「もちろん、怖かったですよ……。でも、相談者の命と財産を守るのが仕事。市の名前を背負って仕事している自負がありましたから、頑張れました」
相談者を守りたい――。その一心で、非常勤職員の職域を超えて働くことになる。
パーソナルサポートで、たらい回し回避
たとえば「DN(ダンナにないしょ)」で消費者金融から借金している女性の相談に乗るうち、背景にあるDV問題を知ることもあった。そんな時は、母子寮(注:離婚などで住居を失った母親が子どもと共に住みながら、自立を目指す福祉施設)や母子保健や、福祉の部門に紹介し、必要な支援を得られるようにした。
ひとりひとりに必要なものを見極め、庁内外の担当者のところに連れて行き繋ぐ。「パーソナル・サポート」と呼ばれる、個人に寄り添った支援を知らないうちにやっていた。おかげで山屋さんに相談した人は、縦割り行政でたらい回しにされることなく、適切な支援を受けることができた。
ある時、山屋さんは、勤務先の消費生活センターの警備員から、こう言われた。「誰かが、いつもセンターの前をきれいに掃除してるよ」。
それは、前に山屋さんが助けたある女性だった。「まだ生活保護を受けているから、物でお礼をするのは難しい。せめて、お世話になった場所をきれいにしたい」という気持ちを込めたという。ある時は「借金で首が回らなくなったので、川に飛び込んで死にます」と言って山屋さんに相談していた人が、数年後、人生を立て直し、元気になってコロッケを作って持ってきてくれたこともある。そういう人たちのことを話す山屋さんは、本当にうれしそうだ。市長宛に御礼状を出す人まで出た。市役所のなかで消費生活センターの位置づけが格上げされていった。
どれだけ人を助けても、悪質業者から何百万円取り返しても、山屋さん自身は手取り13万円の非常勤職員のまま。「おかげで、ワーキング・プアの気持ちがわかりますよ」と笑いながら、それでも、困っている人を助けるのをやめられなかった。そうして続けてきた仕事で培った人脈が、今、インクルいわてを運営するのに生きている。
行政だけでなく、企業ともよい関係を作った。ある時、会合で出会った地元経営者にシングルマザーの実状を話した。実は離婚理由の大半はDVであること。元夫の大半が養育費を払わないこと。子どものために真剣に働こうと思っている人が多いこと。
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