英国史上初｢インド系首相｣誕生の知られざる背景 金融業界出身のエリート､リシ･スナク氏が就任

歴史的に、インド系イギリス人コミュニティーは、他のマイノリティー同様、中道左派の労働党を強く支持してきた。

ところが、アメリカのカーネギー国際平和基金（CEIP）の調査によると、今はインド系住民の労働党支持者は減少し、スナク氏のような中道右派の保守党員も増えているという。これはいまだ階級制の強いイギリス社会でインド系が上流層に食い込み始めていることを意味している。

CEIPの調査によると、インド系住民は、日ごろは政治的発言を控えているものの、選挙のときだけ発言が目立つようになったという。政治集会やボランティア活動にも選挙期間中以外は消極的だという。さらに宗教面ではイスラム教やシーク教徒は圧倒的に労働党を支持する一方、ヒンズー教徒とキリスト教徒の多くは労働党から離れ、保守党に移っている。

約20年前、筆者は家族でイギリスに引っ越すことを模索し、ロンドン郊外で家を探していたことがある。そのとき、不動産屋に紹介されたのがロンドン北西部の住宅地で、新しく広い戸建て住宅が立ち並ぶエリアだった。成功したインド系イギリス人が多く住んでいると説明された。

彼らは教育熱心で勤勉なのが特徴で、白人イギリス人からの信頼度は移民の中では最も高いことを肌で感じた。

イギリスでは6年間で5人目の首相

トラス前首相が打ち出した大型減税を柱とする財政政策が挫折した理由には、株安・債券安・ポンド安の「トリプル安」を招いたことがあった。「富裕層や大企業の優遇」という批判を浴び、財源の裏付けもなかったことから、国際通貨基金（IMF）も異例のクレームをつけた。

その点、スナク氏はゴールドマン・サックスやヘッジファンドでの勤務経験を持ち、金融に精通していることもあって、国民からの期待は高い。

一方、野党の労働党は、スナク氏が6年間で5人目の首相となることから、早期解散総選挙を要求している。

2010年5月の総選挙でデービッド・キャメロン氏が首相となり、2016年6月に欧州連合（EU）離脱を問う国民投票で離脱支持が上回り、キャメロン氏が辞任した。後任のテリーザ・メイ氏は2017年6月に国民の信任を得ようとして解散総選挙に打って出たが失敗し、保守党は与党を維持しながらも弱体化し、2019年12月の総選挙で勢力を盛り返し、ボリス・ジョンソン氏が政権を牽引してきた。

だが、今年夏、ジョンソン氏がコロナ規制を破ってパーティーを開いていたことが発覚するなどして辞任。トラス氏が受け継いだが、前述のようにあえなく辞任に追い込まれた。保守党内には、結束を最優先するため、ジョンソン氏待望論もあった。しかし、敵の多いジョンソン氏は求心力がなく、政権運営が難しいとされ、無投票でスナク氏が首相となった。