44日で辞任「英国・トラス首相」が起こした大混乱 次期首相候補に挙がっている意外な人物

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女王の国葬が9月19日に終わり、いよいよトラス政権が本格的な政策を打ち出すときがやってきた。そこでドカンと出してきたのが、23日の「ミニ予算案」。これは過去半世紀で最大とされる約450億ポンド(約7兆円)の大型減税案だった。

友人でもあったクワジ・クワーテング財務相が自信たっぷりに発表した減税案は、所得税の最高税額の引き下げ、法人税率の引き上げ凍結、銀行員の賞与の上限規制の撤廃などが盛り込まれた。トラス首相が党首選で繰り返した公約である減税を形にしたものだった。

しかし、インフレ率が10%近くとなり、昨年来光熱費の急騰にも悩む国民からすると、「成長重視で経済を活性化させる」という政策はピンとこないものだった上に、「所得税の最高税額の引き下げ」は「金持ち優遇」という批判が与党内からも出てしまった。

これほどの大規模の減税の財源確保は大丈夫かーー。不安を感じた市場では通貨、株式、国債が同時に売られるトリプル安を誘発。9月27日、国際通貨基金(IMF)が大型減税案について「財政悪化につながりかねない」と政府に再考を促すまでになってしまった。翌28日にはイングランド銀行が長期国債を支えるための緊急対策を発表。トラス政権の減税案は世界の市場のひんしゅくを買ってしまった。

保守党と最大野党労働党の支持率が30ポイントも開き、「トラス氏が党首では選挙に勝てない」という不安感が与党内に広がった。

財務相更迭、減税案はほぼ撤回に

批判を無視できなくなり、クワーテング財務相は所得税の最高税額の引き下げを撤回。それでも市場の混乱が抑えられず、10月14日、トラス首相は財務相を更迭した。代わりに党内中道派のジェレミー・ハント元保健相・元外相を抜擢したが、ハント氏には財務省勤務の経験はない。それでも、ほかに「大物」がいなかった。

17日、ハント氏が発表した新財務計画の「さわり」は、先の大型減税案の大部分を覆すものだった。「市場を安定化するために」とハント財務相は繰り返した。

大型減税によって経済を成長させると公約したトラス首相。しかし、その案がほぼ撤回されたとき、その存在理由が消えてしまった。

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