44日で辞任「英国・トラス首相」が起こした大混乱 次期首相候補に挙がっている意外な人物

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有力候補と言われているのはジョンソン政権で財務相だったリシ・スナク氏、院内総務のペニー・モーダント氏。いずれもこの夏の党首選で上位についた。スナク氏の難点はジョンソン氏のパーティー疑惑をめぐって抗議辞任しており、その後次々と閣僚が辞任したためにジョンソン政権が崩壊した経緯があり、党内で今でも人気が高いジョンソン氏を「裏切った人物」という烙印を押されている点だ。

思いがけない候補者になるかもしれない人物が、ジョンソン元首相だ。保守党に近い新聞「デイリー・テレグラフ」には、同氏が候補者になるかどうかを吟味する記事が掲載された。この記事のコメント欄を見ると、「彼しかいない」「イエス、イエス、イエスだ」など、ジョンソン氏の再来を待望する声が多数掲載されている。

新型コロナの感染が広がり、国民に厳しい行動規制が科されていたころ、官邸内で数々のパーティーに出席していたジョンソン氏。さまざまな言い逃れをして信頼を失い、辞任せざるを得なくなった。それでも、幅広い層に強いアピール力を持つジョンソン氏なら「選挙に勝てる」と思う保守党議員は少なくない。

トラス氏が減税を固執した背景

トラス政権が史上最短で崩壊となった根底の理由として、2010年から続いてきた保守党政権の内向き志向があるように筆者には思えてならない。トラス氏が今年夏の党首選で減税を執拗に繰り返したのは、「その方が保守党員の支持を受けられるから」だったと言ってよい。

首相就任後に大きな減税策を繰り出したのも、「自分を選んでくれた保守党員への約束を守る」ためだった。実際に、20日の辞意表明の演説では、この公約を守ることができなくなったことを辞任理由として挙げている。

保守党にとっての利点よりも、物価高騰に苦しむ国民の生活を少しでもよくできる政治家を新しい党首に選んでほしいと願っている人は多い。あと1週間ほどで、その結果がわかる。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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