ピケティ、大御所2人と「格差」を語る スティグリッツ、クルーグマンとの一致点
クルーグマン:確かに格差問題は近年、非常に脚光を浴びており、希望のもてる傾向だ。米国がまさに中産階級の時代だった1960年代に比べて、失ったものも多いが、一方で、人種差別、性差別などの偏見があった。その当時に比べ、今、われわれはよほど寛容になり、多様性を受け入れるようになった。それをもって、格差問題や富の独占を許すものではないが、社会としての発展は継続するものであり、結果的に、格差問題の解決ができるのではないか。
――格差問題はどのように解決すべきか。
クルーグマン:実は、すでにかなり良く効くだろう処方箋はそろえている。資本収入に対する課税やタックスヘイブンに対する規制、累進課税、医療制度改革、子供に対する助成などなどだ。ウォルマートの最低賃金引き上げなど、民間分野では実現するのに、それほどの労力がかからないものもある。時間はかかるかもしれないが、どれもシンプルな施策であり、実現はそれほど難しいものではない。
スティグリッツ:私の著書『世界の99%を貧困にする経済』の最後の章でたくさん書いてあるので、参考にしてほしいが(笑)、たとえば、労働組合の強化やストックオプションによるCEOのボーナスを奨励する法律の廃止、教育改革など富の特定層への固定化を妨げるさまざまな方策がある。
米国、低所得者層で教育を受けられるのはわずか
ピケティ:米国の格差はほかの国に比べ顕著だ。親の所得によって子供が受けられる教育のレベルが決まってしまう。収入でみて下位20%の家庭の子供が高等教育を受けられる確率は20%しかないが、上位10%は90%の確率で受けられる。ハーバードなど超一流の大学に入る学生のほとんどは上位2%の層で、貧困層にはその機会がほとんどない。公立教育への投資、平等な教育機会の創出は非常に重要だ。
クルーグマン:教育だけでは解決法にはならない。大学を卒業した若者の所得はここ15年横ばいで、大学に行ける人 V.S. 行けない人(で格差が開く)というようには語れなくなっている。高校の先生とヘッジファンドのマネジャーは同じような教育レベルであるが、彼らの得られるものはまったく違う。教育は人々にチャンスを公平に分配することにはなるが、生まれてしまった格差を解決するものにはならない。
ピケティ:確かに同じような教育を受けた上位層の人たちの間の格差については教育で解決できるものではないが、下位層にとっては、(教育の喪失は)大きな機会損失(であり、格差を助長するもの)になることは間違いない。
――米国やヨーロッパは中国にどのように対峙すべきか。
スティグリッツ:中国は独自の経済成長を遂げている。市場経済に移行して30年、平均して年率10%で成長しており、所得格差を示すジニ係数は当初は小さかったが、あっという間に大きくなり、米国と同じ程度に格差は広がっている。しかし、一方で、先ほど述べたように5億人が貧困から脱している。そういった意味では最も成功した貧困対策プログラムだったといえよう。
問題は米国とヨーロッパ
今後、多少減速して6~7%成長していくとしても、かつては考えられなかったレベルであり、中国はうまくいっているといえる。本当の問題は米国とヨーロッパだ。ヨーロッパは優秀な人材と組織があるのに、ユーロの問題や厳しすぎる財政規律が首を絞めている。米国の最大の問題は格差。経済成長の成果が平等に分配されれば、需要も創出され、経済も発展することになる。
ピケティ:中国は、透明性や民主制などにおいても抜本的な改革が必要だ。汚職を駆逐したいといいながら、ロシアと同様に、たまに数人を逮捕するような程度で終わっている。国際的にタックスヘイブンや企業の税制の公平性を確保しようとするなら、中国も同じグローバルの土俵に乗せ、同じルールに従うように仕向けて行かねばならない。
クルーグマン:透明性ということで言えば、中国の空気の「透明性」も大きな問題だ。環境問題も彼らの大きな課題になってくるだろう。
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