ピケティ、大御所2人と「格差」を語る スティグリッツ、クルーグマンとの一致点

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トマ・ピケティ●フランスの経済学者。1971年生まれ。パリ経済学校教授、社会科学高等研究院(EHESS)教授。EHESSとロンドン・スクール・オフ・エコノミクス(LSE)で博士号を取得。2013年に出版したLE CAPITAL AU XXIeSIECLE(邦題は『21世紀の資本』みすず書房で2014年12月発売)が世界的なベストセラーに。その所得格差拡大の実証研究は、リーマンショック後の世界経済危機で盛り上がった「ウォール街を占拠せよ」運動に大きな影響を与えている(写真:尾形文繁)

ピケティ:一方で、財政施策についての決定は全会一致でなければならない上に、財政赤字の削減などについて非常に厳しい制約がある。フランスやイタリアはつねにドイツに文句ばかり言うのではなく、もっと条約や制度についての具体的な提案をしていくべきだ。そうなれば、20年後、状況はよくなっているだろうが、何の改革もなければ、事態は深刻なことになる。

スティグリッツ:多くの経済学者は悲観的な見方をしているかもしれないが、アメリカはヨーロッパに比べればましかもしれない。経済情勢を占う水晶玉は曇っているが、政治情勢の水晶玉はもっと曇っている。何らかの是正策が施されない限り、米国における格差の問題は悪化していくだろう。

欧州、間違った経済理論で事態はより深刻化している

クルーグマン:ヨーロッパは単一政府なき単一通貨という構造的な問題がある上に、間違った経済理論によって事態はより深刻化している。さらに、私が名づけるに財政ヒポコンデリー(病気ではないのに、病気だと思って思い悩むこと)」という問題がある。政府は財政危機があると思っているが、10年間0.6%の利率で借りられるのだ。これは財政危機とはいえないだろう。雇用を見ても、25~55歳の統計を見れば、フランスは実は米国よりも良い。

一方、米国には多くの強みがある。社会は柔軟だし、受容性が高く、世界から多くの優秀な人材を受け入れている。ただ、憲法の構造上、(上院で民主党、下院で共和党が過半数を占めるという”ねじれ”状態ゆえに)多くのアクションがとれない状況でもあり、そんな時に、また金融危機が起これば、(対応が出来ず)大変なことになるだろう。

スティグリッツ:本当の問題は、われわれの経済成長の成果が平等に分配されていないということだ。中間階級の平均所得が25年前より低いことやフルタイムの中間階級の男性の平均所得が40年前よりも低いことだ。

――ウォルマートが最低賃金を引き上げる決定をしたが。

スティグリッツ:賃金は市場原理によって決められるものではないということを意味している。一方で、CEOの報酬が従業員平均の30倍だったものが300倍にまで拡大しているということは大きな問題だ。CEOたちの生産性が10倍になったかというと、そうではなく正当化の余地はない。2010年に成立した金融規制改革法であるドッド・フランク法は金融機関に対して、より規制を強化し、情報開示をするように定めたものの、金融機関の抵抗によって、デリバティブに関する情報開示などについては後退しつつある。

なぜ、富裕層が、それ以下の人々より少ない税金ですむのか。米国の税制の特殊性ゆえだが、何らかの抜本的な打開策がない限りは格差の解消はなしえない。

中東は最も格差の大きい地域

――ISISや「シャルリー・エブド」事件などについてどう考えるか。

ピケティ:中東は最も格差の大きい地域と言えるだろう。たとえば、エジプトの教育予算は、人口の少ない湾岸の小国の100分の1のレベルしかない。西側諸国も(王族等の特権階級を支援することで)こうした格差と緊張を作り出してきた側面もある。ナショナリズムの台頭や民族的分裂は国内の社会的格差問題を解決できないことに起因することが多い。ヨーロッパでもナショナリズムの機運が高まっているが、それは、格差に不満を抱く者が、ほかの民族や宗教やほかの国を不満のはけ口として攻撃することにほかならない。

――格差のない平等な社会というのが、幸せな社会ということなのか。

ピケティ:それは程度の問題だ。もし、貧困の下での完璧な平等ということであれば、それは幸せとは言えない。30~40年前の中国は、平等ではあったが、多くの人が貧困にあえいでいた。ある程度の格差は人々にインセンティブを与えるためにも必要であり、正当化されるべきなのかもしれない。

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