京都新聞HD「違法報酬19億円」問題の隠れた焦点 大株主に利益供与、問われる「報道機関」のあり方

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京都新聞は戦後長く「白石家」が実権を握ってきた企業だ。浩子氏はイトマン事件の際、フィクサーの許永中氏と対峙した人物として知られるが、今の混乱は直接には浩子氏の長男、京大氏をめぐって生じたとされる。

HD関係者などによると、京大氏は専門学校卒業後の1998年にその年だけ大卒の入社条件が消えた京都新聞に入社し、編集局や営業畑の仕事に就いた。ところが、京大氏は薬物に手を染め、2005年に覚醒剤取締法違反(使用)で有罪判決を受ける。その際、事件を取材していた現場記者は上層部の意向で記事掲載をストップされ、他メディアの取材が入ってから慌ててゴーサインが出るという屈辱的な出来事もあった。

京大氏はいったん退社したが、2011年には執行役員として復帰。2014年にHD制が敷かれると、HDの取締役に収まった。京都新聞の内情に詳しい人物はこう話す。

「京大氏には、本来なら社会の公器たる新聞経営に携わる資格はないと思います。それなのに、浩子氏は息子に社会的な地位を与え、安定収入を補償しようとした。それがHD制導入の本当の目的です」

白石家側は、こうした見方を否定。今年6月の株主総会では、浩子氏の代理人として出席した弁護士が「定款に明記されている『編集権の独立』を浩子氏は妨害したのか。京都新聞社の記者にそれを問いたい。(株主総会では)いつも委任状を出し、いささかも行使していない。いい会社であってほしいというのが浩子氏の願いだ」と訴えた。

京都新聞グループ報と労組側のビラ
利益供与問題を伝える社報「京都新聞グループ報」と労組側のビラ(筆者撮影)

問われる新聞社の「経営」と「報道」のあり方

最近、大西社長と直に話し込んだという別の関係者は、こう明かす。

「大西さんは『新聞凋落の根は新聞社の古すぎる経営にある。とくに京都新聞は公私混同もいいところだ』と考えています」

そのうえで、次のようにも語っているのだという。

「ネット時代になって報道の内容にますます厳しい目が向けられているのに、『儲け最優先で物事を考えていると、報道の現場が崩壊する』と。ネットに軸足を移すにしても、報道の意味や役割を経営者が理解していないと、例えば、PV稼ぎだけの、とんでもないメディアができてしまうだろう。そうやって地域の報道機能が失われていいのか、と」

大西社長は記者時代、いくつもの調査報道を手掛け、辣腕として知られた。その厳しさに音を上げる記者や反発する向きも少なくなかった。

しかし、「記者・大西には納得できない、許せないこともあった」と明かすある中堅記者は、今回、社長を全面的に支持している。それは、何よりも、以下の理由からだという。

「報道機関としての倫理観や正義感を大切にしないと、新聞は生き残れず、結局は新聞社グループも生き残れない」

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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