マスクが子どもの脳と心の成長を阻むリスクとは 子どもは相手の表情や口の動きを真似て学ぶ
まずは、「子どもとマスク」をテーマに、脳科学の観点から考えてみたいと思います。
生物としてのヒトの脳の発達を理解するうえで、きわめて重要な点があります。保育や教育に関する一般書では、脳は年齢とともに右肩上がりに、直線的に発達するかのように書かれていることが多いです。しかし、これは厳密にいうと正しくありません。ヒトの脳は「でこぼこしながら育つ」のです。
子どもの脳の発達には特別な時期がある
これをもう少し具体的に説明してみましょう。
子どもの脳内ネットワークは、環境の影響を大きく受けながら発達していきますが、そのプロセスでは、環境の影響をとくに受けやすい、ある限られた特別の時期というものがあります。これを「臨界期(critical period)」といいます。ただし、このように表現してしまうと、その時期を過ぎたら脳は環境の影響をまったく受けないという誤解を与えてしまうので、「感受性期(sensitive period)」と呼ばれることが多くなってきました。
私たちは、言語を用いたコミュニケーションや論理的に思考するなどの高度で複雑な認知機能を持っています。そうしたヒト特有の認知機能の多くは、大脳皮質という脳領域の活動によって生じます。ヒトはほかの霊長類と比べてもかなり大きな大脳皮質を持っています。
脳を構成する主役は神経細胞です。神経細胞は、電気信号を発して脳内での情報のやりとりを担います。ヒトの大脳皮質にはおよそ160億個の神経細胞があると言われているのですが、ここで重要なのは、その数が最も多いのは胎児期から生後数カ月という時期であることです。
神経細胞の数は、多ければ多いほどいい、というわけではありません。先ほど触れましたが、神経細胞は「樹状突起(じゅじょうとっき)」や「軸索(じくさく)」と呼ばれるアンテナを伸ばして、ほかの神経細胞と「シナプス」で電気信号のやり取りをします。こうした神経細胞同士のつながり、ネットワークを構築してはじめて情報のやりとり、つまり脳の働きが生まれるのです。
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