泉・明石市長の「暴言」は一体何がマズかったのか 同じく職員とやりあった橋下徹・元大阪市長との違い

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民間から選ばれた首長のスピードに地方公務員がなかなかついていけないのはどこの自治体にもあることで、私の前職の政令指定都市級の職員の中でも、意識や業務能力レベルに私もイライラしたものだ。不況の中で税金をやたら無駄に使う公務員の意識や、市政から離れたレベルの文句だけ言って既得権益を死守するだけの議員も中にはいる。まっとうな感覚の優秀な人なら腹が立つのは仕方ない。それでも、仲良くやっていくのが首長で、コミュニケーション能力のない人は首長には向いていない。

泉市長は、元々メディア業界にもいたので、外向きの発信力に長けている。市民の評判がいいから、職員も議員も表向きは市長と仲良くやっているように見せているが、ひとたび庁内に入ると、水面下で市長に対しての批判や市長を陥れるための策略との攻防が延々と今日まで続いていたのだろう。

怒りに身を任せた暴言は相手の思う壺

それが、積もりに積もったところに再び怒りをぶつけたようだが、これは相手の思う壺。そんなことは、どこの自治体でもあることである。厳しい言い方になってしまうが、泉市長が自らの怒りをコントロールできないのは、庁内をまとめて統率していく首長としては完全にアウトである。さすがに今回は、アンガーマネジメント宣言をしても繰り返された暴言に市民も諦めたようである。ツイッターも日を追うごとにこれまでの功績には感謝しつつ、市長を見送るコメントも目につくようになってきている。

もっとも泉市長は市長を辞しても弁護士や社会福祉士などの資格も持っており、食べるに困らない。橋下氏同様にたとえばテレビの報道・情報番組でのコメンテーターとしての活躍の場もありそうだ。

子育て支援をはじめ、中学生までのこども医療費の無料化、犯罪被害者等支援条例、離婚後のこども養育支援、法テラス窓口を市役所内に全国で初めて設置、全国で初めて「手話言語・障害者コミュニケーション条例」を制定するなど、数々の輝かしい実績を持つ泉市長は、政治家引退後は、講演やテレビに引っ張りだこになるだろう。

優秀な市長を失う明石市民の損失は大きいが、泉市長はこれでやっと「怒り」から解放されるのではないだろうか。

北田 明子 広報・PR、危機管理広報アドバイザー

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きただ あきこ / Akiko Kitada

大学卒業後、1983年大阪読売新聞社入社。89年同社退職後イギリスに留学。帰国後フリーランスの経済誌記者などを経て、2001年対中国投資コンサル会社の副総経理として中国に駐在。05年に帰国後、危機管理広報を中心とした広報アドバイザーとして活動。11年民間から大阪市交通局の広報課長に就任。19年堺市の広報戦略専門官に就任。22年に堺市を退職後は文筆活動のかたわら、民間や自治体の広報アドバイザーとして活動中。22年より滋賀県公文書管理・個人情報保護・情報公開審議会委員。主な著書に『笑うヤミ金融』(ダイヤモンド社)、『企業法務と広報』(共著・民事法研究会)、『企業の法務リスク』(共著・民事法研究会)がある。

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